オリンピックへの道BACK NUMBER
苦難を乗り越え達成したW杯21勝。
野口啓代が強くあり続ける理由とは。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2018/06/09 08:00
男女通じてボルダリングW杯の通算勝利数記録は30勝。野口啓代は世界記録を越えられるか?
感覚頼りを止めると……確実な進歩が!
2016年の末頃から、感覚に頼りすぎているのではないかと気づいた。
「『あの大会の前の感覚に戻したい』とかそういう気持ちが強かったので、記録をあまりにも取らなさ過ぎていたんですね。
トレーニングのメニューや自分の感覚、大会の課題の内容など、しっかりノートを取るようにしました。そうしたら頭の中が整理されるようになって、このトレーニングをしてこの変化が出たとか、この感覚がずれていたんだというようなことを理解できるようになっていきました」
そうした中で浮かび上がった課題に丹念に取り組み、1つひとつクリアすることに努めた。
野口の復調が示す、稀に見る「対応力」。
今シーズン、その成果は表れた。2月のジャパンカップを2年ぶりに制すると、ワールドカップ第3、第4戦で連勝。自信をつかみつつ臨んだ八王子大会でも優勝を果たしたのである。
野口の復調をアピールする勝利は、しかし、それだけの意味にはとどまらない。
ボルダリングはルールの変更があれば、設けられる課題の傾向も変化していく。また、競う相手も次々に変わってきた。その中にあって、苦しい時期を経験しながらの勝利は、長年にわたり世界有数のクライマーとして活躍を続けてこられた野口に備わる対応力を示していた。
大会のあとには、こうも語った。
「1年前には登れなかった課題が登れるようになっています」
野口自身が感じる成長は、他の選手からの「前よりも強くなっている」という評価も裏付ける。
5月に29歳となり、もはやベテランの域に達している。身体のさまざまな面においてコンディションの低下があっても不思議ではない年齢だ。