オリンピックへの道BACK NUMBER
苦難を乗り越え達成したW杯21勝。
野口啓代が強くあり続ける理由とは。
posted2018/06/09 08:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
トップホールドに右手をかける。そして左手もかけて握ると、右手で壁を何度もたたいた。
「絶対に離さない」
最後はそんな思いだったと振り返る野口啓代の目には、涙が浮かんでいた。
6月2、3日に東京・八王子で開催されたスポーツクライミング・ワールドカップボルダリング第5戦は、野口にとってリベンジの場であるとともに、あらためてその強さを示す場となった。
予選を通過して迎えた準決勝でただ1人、4つの課題すべてに成功。しかも攻略するばかりではなく、どれも一撃(課題を一度でクリアすること)でクリアする。
6人による決勝でも、ここいちばんの強さを発揮する。最後の第4課題は野中生萌が1回目で成功。プレッシャーがかかる局面で自身も1回で成功させ、優勝を果たしたのである。
2016年、'17年には一度も勝てず。
「シーズンのはじめから、八王子に向けて気持ちも身体も作ってきました」
負けるわけにはいかないという強い思いを抱いて臨んだ大会だった。
昨年は2位に終わり、悔しさをかみしめた。それとともに今大会は、苦しい思いを味わってきたこの2シーズンから脱け出したことを証明する機会でもあった。
野口は、10年前に初めてワールドカップで優勝。以降、優勝を重ねつつボルダリングの年間チャンピオンにも4度輝いた。名実ともに、世界トップに位置する選手として活躍してきた。
だが2016、'17年は一度も勝てずにいた。
一方で、国内では若い世代が次々に台頭。自身のパフォーマンスの低下と競争の激化、2つの重圧がのしかかっていった。
でも、そのままでは終わらなかった。