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FC今治と岡田武史と東大卒の社長。
フロンターレを手本に熱の持続を。
text by
海江田哲朗Tetsuro Kaieda
photograph byTetsuro Kaieda
posted2018/06/02 07:00
矢野将文社長(左)は試合開催日も岡田武史オーナーと議論を交わし、クラブをより良いものにしようとしている。
スモールサイズならではの長所とは?
「私だけではなく、スタッフやボランティアの方々など、中心でやってもらっている人たちは総じてその役割を担ってくれています。当事者とつながることで、また新たな当事者が生まれる。輪を大きくしていくには、その繰り返ししかありません。今治のような小さな街は人々のつながりが密で、関わる人たちの誰もが主人公の気持ちになれる。スモールサイズならではの長所です」
過去、私はこれと似たようなことを別の人から聞いたことがあった。経営トップとしてファジアーノ岡山を発展に導き、今年3月からJリーグの専務理事に就任した木村正明だ。矢野にとっては東大サッカー部、ゴールドマンの先輩で公私とも親交が深い。木村イズムの後継者といったところか。
笑顔と楽しさの裏に経営のリアリズム。
取材に訪れたのは5月20日、JFL第10節のFCマルヤス岡崎戦。試合前、多くのサポーターでにぎわう広場の一角で、ジーパンを穿いたラフな格好の岡田と海賊姿の矢野(ファンサービスの一環。今治は瀬戸内海で活動した日本最大の海賊「村上水軍」が拠点を置いた地だ)が打ち合わせをする場面に出くわした。
ふたりとも眉根を寄せ、表情は険しい。ジーパンの投げかける言葉に、海賊が真剣な顔で頷く。一見、可笑しみの込み上げる絵面だが、軽口を挟める雰囲気ではない。
「年々、クラブに関わる人が増え、現在は選手を含めて報酬をお支払いしている方がだいたい80人。この責任は、しびれますね」と話す矢野の表情が思い出された。はじけるような笑顔と楽しさを提供する裏側には、クラブ経営の徹底したリアリズムがある。
第10節の終了時点で今治は4位。じきに世間を騒がせた事件は一段落し、次はサッカーが全国的な注目を集める番だ。