オリンピックへの道BACK NUMBER
日大アメフト部の指導者に欠けていた、
「コーチに最も必要な資質」とは?
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTamon Matsuzono(R)
posted2018/05/27 09:00
写真左が下北沢成徳高校バレー部の小川良樹監督。右は帝京大学ラグビー部の岩出雅之監督。
選手が自然に気づくよう、言葉をかける。
ただし、小川監督は決して放任しているわけではない。
「『今日の試合のお前はいったいなんだったんだ!』って、指導者はそういう方向にいきがちですよね。でも、その言葉は感情をぶつけているだけですよね。練習で何かを言うときも、気づいてほしいという思いから問いかける。
例えば、『今、君たちがアップを始めたけれど、おそらくライバル校もアップを始めたよね。ひょっとしたら今日1日の練習を、成徳に絶対に負けたくないと思いながらアップを始めたかもしれない。君たちはどういう気持ちでアップを始めているのかな』と言ったり」
現在の日本代表、冨永こよみは以前、高校時代を振り返ってこう語っている。
「主将として行き詰っているとき、『もっとわがままでいいんじゃない』と声をかけてくれて、それで楽になったことがありました。『成徳は(練習が)やさしい、ゆるい』と周囲から言われることもありましたが、あらためて考えると、選手の先々を考えて指導してくれていたんだなと気づくことがたくさんあります」
将来を考え、選手の自立を促す指導。
この2人の監督に共通するのは、選手の主体性を重んじる姿勢だ。それは選手の将来を思うからでもある。
岩出監督は言う。
「学生は卒業してからの人生が当然長いわけです。そのためのステップの期間ですから」
小川監督はこう語っている。
「高校3年間、バレーボールを嫌いにならないようにして、自分からバレーボールをやりたいという気持ちで次のステージに上げるのが仕事なんだろうと思います」
これまでの華々しい実績が物語るように、両チームともに勝利を追求する姿勢はもちろん持っている。同時に、選手の将来を考えつつ、選手の自立を図ってもいる。そういうスタンスの指導者や部は、この2校の例に限らない。
あらためてチームというものを考えれば、そこにはさまざまな個性を持った選手が在籍しており、指導者が好きに選べるわけではない。それでも、選手たちを導いていかなければならない。