マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
清宮幸太郎の「左ヒジ」が気になる。
才能がある者だけに許された構え。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2018/05/08 08:00
ごく自然に活躍し始めているが、清宮幸太郎はまだ高卒1年目の18歳である。一体どれほどの才能を内に秘めているのだろうか。
後ろヒジを上げると、闘志が漲ってくる?
ある野球解説者が、左ヒジを高く掲げた構えの利点をテレビで語っていた。
振り出しの瞬間に、高く上げていたヒジを一気に下ろすことで、スイングスピードが増速でき、打球の速さや飛距離を生める。
確かに、そうだ。こういう話、自分が現役で野球をしていた頃に聞きたかった……。“人生”が少し変わっていたかもしれない。
「いい事」はもう1つある、と思った。心の問題である。
ちょっと、やってみた。
後ろのヒジ(清宮選手のように左打ちなら左ヒジ)を下げて構えた時の心持ち。逆に、後ろのヒジに高さを持たせて構えた時の心持ち……結構大きく違っていないだろうか。
私なら、後ろのヒジを高く掲げて構えた瞬間、胸の内ではっきりと闘志の炎がメラメラと燃え上がり始めるのがわかる。
逆に下げて構えると、心中は平穏のまま。写真でも撮ってもらうためにバットを構えているような気分で、この姿勢から闘いのパッションはなかなか生まれてこないようだ。
この構えはもしかして……。
ならば、それはなぜか?
バットを構えた姿勢から前の腕を外し、バットも外して、脇を大きく空け、ヒジに高さを持たせた後ろの腕だけの形。その形をジッと見てみた。
どこかで見たことのある形だと思った。あまりよろしくない喩えかもしれないが、ケンカで相手を痛打しようとする直前の「このやろー!」の形ではないか。
そういえば、強烈な張り手を得意ワザとするお相撲さんも、張り手を繰り出している時のヒジの位置が実はすごく高いことを、報道写真で見たことがある。
大谷翔平の、そして清宮幸太郎の、後ろのヒジを高く掲げた構えは、強力な相手に対して“闘い”を挑もうとする闘志の象徴なのではないだろうか。
もっと俗な表現をすれば、「このやろー! かかって来い!」という心の雄叫びの体現ではないのか。
ヒジに怒りを!
それは闘う心の“原点”なのかもしれない。
ならば……と、さらに考えた。
スランプに落ち込んで、なかなかバットを振り出すふん切りがつかなくなっている選手。気がやさしくてファーストストライクから振っていくのをついためらってしまう選手。そういう選手に、この「後ろヒジの高さ」というカンフルを注入することで、選手の野球が変わってきはしないか。