くまさんの蹴球漂流記BACK NUMBER
詐欺師、強盗、スリがうごめく南米。
メッシ、ネイマールらが育つ背景が?
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byTakashi Kumazaki
posted2018/04/10 07:30
左からフラメンゴ、バスコダガマ、フルミネンセ、ボタフォゴの紋章が描かれたリオの壁画。こういう作品との出会いがあるから、路地歩きはやめられない。
1人でやり切ることは日々の生活から。
うしろを振り返ると、強盗もふらふらと逃げ出していた。結局、そいつの顔は見られず仕舞い。
私は広場に常駐する屈強な警官ふたりにエスコートを頼み、安宿へとたどり着くと、入れ代わりで広場に出撃しようとしていたドイツ人のグループが血相を変えた。
「なにがあったんだ!? 話を聞かせてくれ!」
このときまで気づかなかったのだが、私の右手は血に染まっていたのだ。
ありのままに語るのも面白くないので、
「このへんは危ないよ。3人に囲まれ、ふたり倒したところで力尽きた」
と言っておいた。これくらい盛っても許されるでしょう。
ダンプカーのように大きなドイツ人たちは神妙な顔つきで私の話に耳を傾け、その晩は宿に待機する判断を下した。この晩から、宿泊客たちが尊敬の眼差しで私を見るようになったことはいうまでもない。
このときの経験を、私は次のように結論づけた。
詐欺師、強盗、スリがうごめく夜道をくぐり抜け、無事に宿にたどり着く。ブラジルでゴールを決めるというのは、こういうことなのだろうと。
それをひとりでやってしまうのが、メッシやロナウド、ネイマールのような達人たち。単独突破に失敗し、屈強なふたりの警官に助けられてゴールにたどり着いた私は、まだまだ“個の力”が欠けているということだろう。
ないものねだりは良くない。以来、「個の力がない」と批判することに、さらに慎重になったことはいうまでもない。