サムライブルーの原材料BACK NUMBER
中澤佑二は速度勝負になぜ勝てるか。
ハイライン守備で光る「コンマ何秒」。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2018/03/30 16:30
中澤佑二にスピードのイメージはない。しかし、読みと統率力で早くもハイラインに適応しつつある。鉄人恐るべしである。
スピード勝負は「読み」で対抗する。
コンディション管理にも工夫していく必要があると彼は言った。
「自分の今までやってきたことにしばられると、何もできなくなってしまう。きょう(の練習)はこうなると分かった時点で、じゃあそのあとに何ができるかを瞬時に判断してその日だけのサイクルをつくっていく感じですかね。柔軟にということです」
あれだけ走れば、1試合の消耗度も激しい。マリノスは第4節終了時点で1試合平均距離が119.313km。リーグ2位の距離で、走るチームであることは数値でもあらわれている。
中澤はセンターバックながら毎試合10km以上走っており、なかでも特筆すべきはスプリント数。昨年までの平均5、6本から3倍に上がっている。
ハイライン設定で裏に出されると、ゴールに向かってスピード勝負になる。だがここで中澤は負けていない。
ここには経験に裏打ちされた「読み」がある。
「そこはもう0コンマ何秒の世界だとは思うんです。ボールが出そうだったら相手より半歩早く走ればいいし、半歩前に出ればいい。そういう足の速さって陸上競技のように、別にヨーイドンではないので。可能な限りフライングじゃないすけど、先読みして早くスタートを切ることができればそれに越したことはない」
相手が足の速いフォワードだろうが、個の予測と先読みで対抗できるというわけだ。
使わせていい「裏」と、ダメな「裏」。
だが最終ラインの足並みがそろわなければ水漏れが生じて、オフサイドトラップひとつとっても難しくなってしまう。裏に出されようとしても慌てない。裏に出されても慌てない。ビフォーアフターで足並みをそろえることを重視する指揮官の哲学を、中澤は先頭に立ってピッチで反映している。
「ラインは下げなくていいと監督にはっきりと言われているんで、やるほうとしたらやりやすい。いいボールが出たらしょうがないぐらいの気持ち。4バックがしっかりとそろって真ん中を絞っておけば、真ん中をやられることはほぼないと思っていますから」
サイドの裏は仕方ない。使わせていい「裏」と、絶対に使わせてはいけない「裏」の意思統一がチームとして図れているのだ。この明確な基準が判断のよりどころ。それでもやられてしまったら、全力でゴールを守るべく対処する。それだけのことだ。