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女子マラソン、東京五輪の切符争い。
関根花観が見せた挑戦する者の強さ。
text by
金哲彦Tetsuhiko Kin
photograph byEKIDEN News
posted2018/03/15 07:30
関根はリオデジャネイロオリンピックでは女子10000m代表として出場したが、東京オリンピックではマラソンでの出場を目指す。
ケニアの有力選手についていった2人。
レースを振り返ってみて、マラソンはメンタルが重要な種目だということを再認識したのである。
実績があっても守りに入った選手たちが自滅したのに対し、実績はなくともチャレンジスピリッツが旺盛な選手や、レースに対する覚悟を持った選手の方が強かったのだ。
25キロでペーサーが離脱したあと、予想どおり2時間20分53秒の記録を持つ実力者バラリー・ジェメリ(ケニア)がギアチェンジして集団を切り崩した。
懸命に追いすがったのは初マラソンの関根と岩出の2人。
やがて岩出も離れはじめ、それぞれ単独走になった。
バイク解説を担当していた私は関根と10キロ近く並走し、その走りをつぶさに観察した。
トラック競技ではリオにも出場した関根ではあるが、ロードレースは駅伝の距離しか経験がない。
アルバカーキの高地トレーニングで「一番苦しかった」と語った50km走はこなしたが、レースとはペースも状況もわけが違う。
関根は一度も振り返らなかった。
前を走るジェメリとメリマ・モハメドが関根の視界から徐々に遠ざかっていく。
選手の心理としては自分のペースが落ちているのではないかと不安になる場面だ。特に後ろから追いかけてくる選手の存在が気になるだろう。
しかし、関根は一度も後ろを振り返ることはなかった。それどころか、腕時計さえ見なかった。
表情は歪んでいた。 マラソンでおきる、脚が辛くて止まりそうになる苦しさが関根を襲ったのだろう。
それでも、トラック競技で課題となっていた肩が上がる癖を修正するように何度も肩を上下させた。まさに関根は、ライバルではなくマラソンという未知の距離、そして自分自身の苦痛と闘っていたのだ。
そして、見事に一度もペースを落とすことなく2時間23分7秒の3位でフィニッシュし、MGCを獲得した。