オリンピックPRESSBACK NUMBER
米スポーツ界とメンタルセラピー。
恋人と別れる時期が競技成績に影響?
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byGetty Images
posted2018/03/13 07:00
五輪で6つの金メダルを獲得したライアン・ロクテ(中央)もフロリダ大学出身。現在はサニブラウン・アブデルハキームも在籍。
幼少期の問題を解決するために家族を呼ぶことも。
相談内容は守秘義務によって守られているが、必要に応じてコーチや家族など悩みの原因になっている人たちと共にグループカウンセリングを行うこともある。
「あるバスケットの選手は、子供の頃の問題が心に刺さっていて、それが解決できていなかった。家族を呼んで話し合いをしたところ心が軽くなったようで、プレーが見違えるようによくなり、得点率が高くなったケースもありますよ」
アメリカの大学スポーツは奨学金や不便ない寮生活といったハード面だけではなく、ソフト面でも細かなケアをして、スポーツ奨学生を支えている。
五輪代表チームのスポーツ心理学者がとるアプローチは、大学とは少し異なる。
4年に一度の五輪イヤーに「不退転の覚悟」で新しいことに取り組む人もいるかもしれない。それが絶対に必要な挑戦だったり、自らの意思に関係なく変えなければならない場合もあると思う。しかしアメリカの陸上チームで選手のカウンセリングを行った経験をもつスポーツ心理学者はこう話す。
「五輪の年に、新しいことへの挑戦は基本的に勧めません。大きな飛躍を求めてコーチを代えたり、練習環境を変えたりする選手がいるけれど、成功例はとても少ないです。今までやってきたことを続ける方が効果があります」
確かに新しいコーチや練習、環境に慣れるのに時間がかかったり、慣れない練習で怪我をしたりする可能性もあるため、適切なアドバイスのように感じる。
恋人と別れるなら冬季練習の前に。
競技以外のアプローチも興味深い。
「もしどうしても変えなければならない部分があるなら、シーズンインする前に解決しなさい、とアドバイスします。コーチとどうしてもソリがあわず変えたい場合は冬季練習の前に変えなさい、と。恋人やパートナーとうまくいっていなくて、『そのうち別れたい』と思っていたら、今すぐ別れなさい、と伝えます。
五輪選考会の前にもめて別れるなんてことになったら、目も当てられない状態になります。今別れられないなら、五輪が終わってから別れなさい、と言いますね」
競技外での人間関係は競技には直接関係ないけれど、競技に集中する環境を作るためには、「確かに」と納得してしまうアドバイスだ。
心をざわつかせる変化をとらないというのが五輪イヤーの鉄則のようだ。