ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
お金や地位より旅を選ぶゴルファー。
川村昌弘「シードがない方が……」
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2017/12/27 07:00
クリスマスの夜に羽田空港へ到着した川村昌弘。まだしばらく、「普通」に捉われるつもりはない。
日本の普通とインドの普通は、驚くほど違う。
川村昌弘は、やっぱり普通じゃない。
けれど、立ち止まってみると、普通って一体なんだろう。
誰もが一度は頭を悩ませる問題について、彼はその答えを導き出す体験を重ねている。
帰国直前のインド・コルカタでの試合期間中、川村はSSP.チャウラシアという、欧州でもプレーする地元のスター選手に夕食に招かれた。
現在39歳のチャウラシアは幼い頃、今大会が行われたロイヤルコルカタGCの脇に住んでいた。父の仕事は同コースのグリーンキーパー。軒先にあった9番ホールのグリーンは、お客さんが帰った後の子どもたちの遊び場であり、絶好の練習スペースだった。
チャウラシアは17歳でプロ転向するまで、アマチュアの公式大会でプレーしたことがなかったという。川村は「彼はジュニアの時に試合に出られず、地元のコースでとにかく練習して、賞金を稼ぐためにプロになった。2006年にアジアンツアーに参戦するまでは、インド国内のツアーでコツコツお金を貯めていたそうです」と本人から話を聞いた。
エリート街道を歩み、高校卒業後にツアーですぐにシード権を取った自分とは、まったく違う境遇を経験してきたプロゴルファーが目の前にいる。
「僕も『うちの家はお金持ちじゃない、普通の家庭だよ』と言うけれど、それはインドでの『普通の家庭』とは同じじゃないと思う。アジアには小さい頃にボール拾いをして生計を立てながら、プロになった選手もいる。自分の思う普通と、彼らの普通は違うはずなんです」
「お金が続けば、ですよ。外国に行けるのも」
テレビやネットや本で得た情報ではない。見て、聞いて、感じて。川村はゴルフを通じてそれぞれの国や地域の空気を吸い、自ら知見を広げ、思考を醸成している。
クラブ片手に世界を巡る旅は一見、悠々自適な自由人生活のようで、24歳は「お金が続けば、ですよ。外国に行けるのも」と理解している。賞金を稼げなければ行動範囲は自ずと狭くなる。