ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
お金や地位より旅を選ぶゴルファー。
川村昌弘「シードがない方が……」
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2017/12/27 07:00
クリスマスの夜に羽田空港へ到着した川村昌弘。まだしばらく、「普通」に捉われるつもりはない。
シードを失いかけると追い詰められるものだが……。
6月のアジア遠征の最中、インド洋に浮かぶスリランカまで足をのばした。観光案内をしてくれたのはこれまた同国出身のプロゴルファー。約130年前、イギリス領だった島国に作られたゴルフ場をラウンドして「アジアで2番目に古いといわれるコースなんです」と興奮した。舗装が十分でない道路を走る車に乗り込み、“天空の宮殿”といわれる世界遺産・シーギリヤロックにも登ってきた。
川村は今季、各ツアーで翌年の出場権確保に苦しんだ。秋口に復調の兆しを感じながら、好成績が出ないまま海外ツアーのシードを喪失。日本ツアーでも賞金ランキング71位と振るわず、来季前半戦の限定的な出場資格を得るにとどまった。
シード喪失危機に瀕したプロゴルファーにとって、1年の終盤戦は実にセンシティブな時間だ。精神的に追い込まれ、それがまたコースで悪循環を呼ぶ。「食事ものどを通らない」状況が、あながち比喩にならない。
ただ、彼はどうだったか。
11月のはじめ、日本ツアーのシード維持さえも危ぶまれていた状況で、川村は開き直ったようでもなく、現状を悲観するでもなくこう言った。
「シードのこと……確かに考えますよ。でも、思うんです。ゴルフって、世界中でやっているんですよ。タイでも、フィリピンでも、インドでも。それぞれの国にプロツアーがある。確かにアメリカや日本みたいな大きなツアーじゃないけれど、そこで腕を磨くのもいい」
「シードがない方が、もっといろんな国に行けるかも」
一般的なゴルフファンが頭に浮かべる「ツアー」とは、男子でいえば米、欧、日、アジアン、豪、南アの6大ツアーに代表される、世界ランキングのポイントが付与される大会が並ぶツアーのことだ。
それが、川村に言わせればもっと広い、本来の意味になる。「こういう言い方は良くないけれど、考え方によっては日本のシードがない方が、もっといろんな国に行けるかもしれないなあって……」とまで、つぶやいたのだった。