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バレンシアが2位なんていつ以来!?
メッシ&スアレスを上回る2トップ。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byGetty Images
posted2017/11/12 09:00
リーガでメッシに次ぐ得点ランク2位につけるザザ(右)。バレンシアの復興はこのイタリア人にかかっている。
大株主リムの手に決定権は握られている。
そして7月には大株主ピーター・リムの右腕レイフーン・チャンからアニル・ムルティに会長が交代。9月にはアレサンコが解任され、アレマニーとテクニカルセクレタリーのビセンテ・ロドリゲス、監督のマルセリーノ・ガルシア・トラルの3人が名実ともにチーム強化の中心となった。
つまり、今季も過去数年と同じく、ゼロからやり直し始めたばかりなわけで、重要なのはこの先もこの体制を継続できるかどうかにある。ここまではチームが結果を出しているから良いものの、過去数年にわたって過ちを繰り返してきたリムの手に重要な決定権があることは変わらないだけに、油断は禁物だ。
それでもメスタージャで繰り広げられる光景を目の当たりにすれば、人々が「今度こそ」と希望を抱きたくなる気持ちも理解できる。
今季のバレンシアのプレーは、一言で表現するならば「痛快」だ。
ボールを持ったら、迷わず縦へ。余計な手間はかけず、ゴールへの最短距離を目指す鋭角的なフットボールは、マルセリーノが信条とするスタイルであると同時に、古き良き時代のバレンシアを思い起こさせるものでもある。
ポストプレーに優れた2人のFWの存在。
そんな攻撃を可能にしているのは、シモーネ・ザザとロドリゴの2トップだ。
質実剛健な点取り屋であるザザに対し、ロドリゴは攻撃的ポジションならどこでもこなせる万能なテクニシャンである。同じ左利きでも全く特徴が異なる2人ながら、共通の長所もある。いずれも前線で縦パスを引き出し、タメを作れるポストプレーに長けていることだ。
かたや恵まれた体格を生かし、かたや巧みにマークを外してくさびのパスを引き出し、2列目、3列目からの攻め上がりを促す。強力なポストプレーヤーが2人も前線でパスコースを作ってくれるから、後方の選手たちは余計な組み立てを挟むことなく、シンプルに縦パスを選択できるのだ。
どこからでも縦パスを「刺す」ことができる強みは、ボランチを組むダニ・パレホとジョフリー・コンドグビアのパス能力、左サイドに加入したゴンサロ・ゲデスの長距離スプリント能力を生かすことにもつながっている。