サムライブルーの原材料BACK NUMBER
小林祐希=ファシリテーター説。
名波の教えと、忘れられない日付。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2017/10/17 11:30
ビッグマウス、俺様、というイメージが強い小林祐希だが、極めて頭脳的で、チームのバランスを意識する選手なのだ。
浅野、遠藤とビジョンを共有して仕掛けた前プレ。
ファシリテーターらしいなと思えるプレーがあった。
前半17分、杉本健勇がチームの2点目を挙げた場面だ。このゴールは、小林のプレスから始まったものだ。
相手センターバックのつたないボール回しに狙いをつけ、小林は左センターバックのジェフラールにボールが入ったところにプレスを掛けた。右ウイングの浅野拓磨の位置を確認して、ハメにいった。
「別に俺は取らなくていいんですよ。コースだけ限定させて、蹴らせて味方がガチャッとつぶす。そうすると相手の選択肢がなくなるから、ゴールキーパーまで下げてくるならそれはそれで良かった」
中のコースを切って、左サイドにパスを出させると浅野がピタリとマークしている。こぼれたボールをアンカーの遠藤が奪い取って、パス交換から前線へ。最終的に杉本がゴールを奪った。
情報量の少ない相手に対して、狙い目になるとチームで合意形成できたと判断し、浅野と遠藤と共有して実行に移したのだった。この2分後にも同じように、小林は相手センターバックのボール回しを狙って、浅野の位置を確認してプレスを掛けている。相手はゴールキーパーまでボールを下げざるを得なかった。
自分のアピールではなく、チームを機能させるために。
だが、守備の呼吸が合わないと難しさが出てくる。先のニュージーランド戦から先発を9人入れ替えており、それぞれが生き残りを賭けたサバイバルレースでもある。個々によってアピールポイントも違ってくる。
前半28分、プレスがはまらずにトップのナゾンにボールを出されると、味方がつぶし切れない。その後ろから飛び出してきたボランチのラフランスのマークに小林もつききれず、失点を喫した。
そして後半になると、「ハメる守備」が影を潜める。小林は試合後、守備の「合意形成」の難しさを口にした。
「守備は自分のテンポでできるものじゃなく、いつも一緒にやっているわけじゃないから判断が遅れる。行っていいのか、後ろが来ているかと気にしながら前に出ていくと、一歩遅れるところがある。逆に相手は後ろ(が来ている)とか関係なく、ガツンとファウルで止める。ああいうのは俺らもやっていかないといけない」
「相手のセンターバックにも(プレスを)掛けにいって、ずれてずれてというのがないと、うまく前にはまっていかない」
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督に自分自身がどうアピールできたか、ではなく、あくまでチームが機能するためにどうあるべきだったかに考えをめぐらせていた。初先発なら「自分」に向きがちだが、彼は「チーム」を見ていた。