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カープとファン、幸せな距離感。
菊池涼介が伝えたい「ありがとう」。 

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田村航平(Number編集部)

田村航平(Number編集部)Kohei Tamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2017/09/28 17:00

カープとファン、幸せな距離感。菊池涼介が伝えたい「ありがとう」。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

菊池は2012年にドラフト2位で入団して6年目。2013年から4年連続ゴールデン・グラブ賞獲得とすっかりチームの顔だ。

「負けちゃったけど、雑誌作りに生きたなら……」

 菊池が執念を見せたのは、3回の攻撃だった。0-0と同点での1死一、二塁で、2番・菊池が放った打球はボテボテのゴロで二塁手の前へ。こういう打球で、最近の菊池はよく一塁へヘッドスライディングをする。それは気迫の表れでもあるが、一方で故障を抱える下半身への負担軽減の意味もあった。

 だが、このときは一塁を最後まで駆け抜けて内野安打をもぎ取った。続く3番・丸佳浩に2点タイムリーが生まれ、ついにスワローズをリードする。傍目にはわかりづらいが、何としても本拠地優勝を決めたいという菊池の思いが結実したように見えた。

 そう上手くいかないのも野球の面白いところで、カープは終盤に逆転を許して敗れてしまう。ただ、多くの球場スタッフは最後まで優勝セレモニーの準備の手を緩めなかったし、ときどき立ち止まっては試合の状況を流しているモニターに祈るような眼差しを向けていた。

 試合終了後に広島駅に向かう道中でも怒号が飛び交うなんてことはなく、誰もが赤いユニフォームを着たまま再び降り始めた雨に静かに打たれていた。

 その2日後、カープは敵地・甲子園で連覇を達成。無事に雑誌の校了を終えて前述の友人に改めて8月のチケットのお礼を述べると、こんなことを言われた。

「あの試合は負けちゃったけど、雑誌作りに生きたなら良かったよ」

 選手がグラウンドで一生懸命に戦っているからこそ、無駄な敗戦がないことをファンも十分に理解している。カープの選手とファンの独特な関係は、根底でそうした気持ちを共有することで成り立っているのではないかと感じた秋だった。

 Number936号「カープの時代」では、37年ぶりにセ・リーグを連覇した広島東洋カープを大特集。打線を牽引した1、2、3番トリオ「タナキクマル」を中心に、選手たちの野球観に迫りました。新井貴浩選手のインタビューに黒田博樹さんからのメッセージ、久米宏さんと奥田民生さんのカープファン対談と盛りだくさんの内容になっています。
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菊池涼介
広島東洋カープ

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