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カープとファン、幸せな距離感。
菊池涼介が伝えたい「ありがとう」。
posted2017/09/28 17:00
text by
田村航平(Number編集部)Kohei Tamura
photograph by
Hideki Sugiyama
マツダスタジアムには仕事で何度も足を運んでいるが、この夏は友人たちとプライベートで行ってみた。
そもそも、熱心なカープファンの友人からお誘いがあったのは、3月に入ってすぐのこと。「8月のこの日って空いてる?」と聞かれても、そんなに先の予定はわからないから困ってしまった。事情を問うと、チケットは3月の発売開始とともに1シーズン分の全席がほぼ完売してしまうという。
幸いにもその日は編集部の夏休みとも重なり、貴重なチケットを無駄にせずに済んだ。
いつものことながら、今回も新幹線で広島駅に降り立ったとき、目に飛び込んでくる赤いユニフォームの多さに驚いた。そこでは老若男女問わず、ファッションとしてカープが溶け込んでいる。駅ビルのお土産売り場では、女性の店員が揃ってカープユニ。思わず「会社から支給されるんですか?」と尋ねたら、「私物です」と笑顔で返された。
ここでは全国チェーンの店も、カープ色に染まっている。コンビニにはカープ応援グッズの棚が設けてあるし、マクドナルドは「試合のある日はチキンナゲット割引」をうたっていた。「力舞吼フェイスシール」を買って、いざスタジアムへ。
満員のカープファンが不満をぶつけることはなかった。
肝心の試合はといえば、先発の福井優也が5回に制球を乱して敗れてしまった。
通路のモニターには、ベンチに下がった福井が悔しそうにグラブを叩きつける場面が映し出されていた。その映像を、カープファンの少年が食い入るように見つめていた。それは、その悔しさを自分も共有しているかのように見えた。
結局、この日の満員のカープファンたちはトボトボと帰路に着くわけだが、誰もグラウンドに向けて不満をぶつけることはなかった。