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ダブルエースがパラ競泳を熱くする。
木村敬一と富田宇宙のライバル物語。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byAsami Enomoto

posted2017/09/24 07:00

ダブルエースがパラ競泳を熱くする。木村敬一と富田宇宙のライバル物語。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

北京大会からパラリンピックに出場し続けている木村。その経験値をベースに富田との戦いに挑む。

「3年後の目標は?」「特にないです」の真意。

 リオが終わったあと、木村は自由形とバタフライの練習に取り組んできた。世界一を目指すなら、平泳ぎは難しいと考えた。ただ、3年後の東京パラリンピックについてはあまり触れたがらない。9月初旬に行なわれたジャパンパラ競技大会でも「3年後の目標は」と問われ、ひとことで答えた。

「特にないです」

 金メダルに向けて歩む日々が心身ともにハードであることを知るから、世界一になることを意識しつつ、慎重になる。そんな木村だが、意識せざるを得ない相手が現れた。それが富田である。

富田が同じクラスになり、木村としてはライバル出現。

 富田は3歳で水泳を始めて以来ずっと打ち込んできた。しかし高校2年生の頃、網膜色素変性症にかかって視野が徐々に失われていった。競技を続ける難しさを感じて大学進学後は競技ダンスに転向したが、症状がさらに進んだことでそれさえも断念する。そして大学卒業後に障害者水泳を始めてみると、高校までに培ってきた練習が生きたのだ。2015年には、身体障害者水泳日本選手権400m自由形、100mバタフライでアジア新記録を樹立し優勝したのはその証左だ。

 だが、リオには手が届かなかった。当時S13クラスだったが、選考基準をクリアすることはかなわなかった。

 そして転機は今夏訪れた。症状の進行により、S13からS11にクラスが変更となった。100m自由形や100mバタフライなどで基準を突破したことになり、世界選手権代表に追加で選ばれたのである。

 富田が同じクラスになったことは、木村にとってライバルの出現を意味した。それを物語るように、ジャパンパラの100mバタフライでは、予選は富田が1分02秒89で1位、木村は1分03秒37で2位。迎えた決勝は、富田がコースロープにぶつかったこともあって1分04秒97とタイムを落とす一方、木村は予選から1分02秒69とタイムを上げて優勝を果たしたとはいえ、今後の競り合いを予感させる1日となった。

【次ページ】 「“見えない”という部分は、僕よりも高いなと」

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