パラリンピックへの道BACK NUMBER
ダブルエースがパラ競泳を熱くする。
木村敬一と富田宇宙のライバル物語。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2017/09/24 07:00
北京大会からパラリンピックに出場し続けている木村。その経験値をベースに富田との戦いに挑む。
「“見えない”という部分は、僕よりも高いなと」
レース後、木村は心境を正直に明かした。
「抜かれるかもしれない、という恐怖心のようなものはあります」
そしてこう続けた。
「もちろんすごく仲がいいだけに、やりにくいところはあります。ただ障害者として、スイマーとして持っているものを出し合って、お互いに記録をあげていければいいなと思います。せっかく世界のトップレベルでやれる相手が国内にいるわけですから。今日の決勝は両方タイムが悪かったので申し訳ないですが、今後もっと100mの全盲のクラスのレベルを上げていきたいです」
対する富田は「進行性なので、障害が重くなることはもともと分かっていたことです。日常生活で言えば辛い部分はありますが、そこは冷静に受け止めています」と語った上で、木村についてこう触れた。
「木村君は生まれたときからほとんど目が見えず、世界をまったく見たことがない子です。一緒にいることで“見えない”という部分は、僕よりも高いなと感じている部分があります。逆に僕はもともと見えていたので、そこが自分のアドバンテージかなと思っている部分もあります。
彼はもともと見えていないけど、僕はあとから見えなくなった。それぞれ対照的なプロセスをたどっていますが、お互いすごく気が合って、水泳のレベルも近くて、近い境遇にあるので、いい仲間としてもライバルとしてもとてもありがたい存在です」
パラリンピックのレベルを上げていくために。
木村が「自分がパラリンピックのレベルを上げている、一番先頭を走れているというのはすごく名誉なこと」と言うように、第一人者としての誇りを持つ男からしてみれば、国内にようやく現れたライバルは大きな刺激となる。
富田としてみても、身近にいる世界有数のスイマーに挑めるのは、またとない環境だ。
「調子を上げていって、出場種目で金メダルを獲れるよう、精一杯やりたいですね」(木村)
「選んでいただいたので、メダルを獲得するのが一番だと思います」(富田)
リオでの悔しさを胸に、リオに立てなかった悔しさをばねに。
それぞれに進んできた2人は互いを意識しつつ、今後の飛躍を誓う。