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名門・高砂部屋に待望の幕内力士。
朝乃山、大らかな師匠と歴史を紡ぐ。
posted2017/09/09 09:00
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph by
Kyodo News
この9月場所、名門高砂部屋がその歴史に新たな1ページを書き加えた。
近畿大学卒の朝乃山英樹(23)が、新入幕を決め、実に2003年3月の朝赤龍昇進以来、待望の幕内力士の誕生となったのだ。
師匠の高砂親方は、記者会見の席で傍らに座る弟子を見やり、その眼を細めた。
「野球でいえば幕内は一軍。部屋を持ったからには幕内力士を育てるのが目標でもあります。再びこの朝乃山が実現させてくれました」
昨年3月、本名「石橋」の名で、新制度の三段目付け出し資格で東農大出身の豊山(当時「小柳」=時津風部屋)とともに初土俵。以来負け越しなしで着実に番付を上げてきた。十両昇進、幕内昇進と、豊山に一歩リードされていたものの、先の7月場所では11勝。十両優勝決定戦では惜敗するも、新入幕をその手中にした。
139年間も関取を輩出し続けた高砂部屋だったが。
明治時代から139年もの長きにわたり、関取を輩出し続けた記録が、昨年11月場所を最後に途絶えてしまった高砂部屋だった。
この場所の千秋楽、十両と幕下の入れ替え戦で、辛くも4勝目を挙げた朝弁慶が、兄弟子の朝赤龍に想いを込めて水を付けていた姿を思い出す。
朝弁慶は、1年間保持した十両の座から、西幕下3枚目に落ちて迎えた場所だった。一方の朝赤龍は、西十両9枚目。この日までに4勝10敗と幕下陥落危機を迎え、千秋楽の一番に「十両残留」を賭けていたのだ。
まさに“剣が峰”に立たされた35歳のベテラン力士は、西幕下2枚目の希善龍に敗れる。名門高砂部屋の伝統が途切れた瞬間だった。
この場所で、新十両・再十両昇進相当の星を上げた幕下力士は5人。勝ち越しながらも6番手だった朝弁慶は、一場所での十両復帰に、わずかに届かず涙を飲んだ。