野球善哉BACK NUMBER
菊池雄星は何を信じ、何を疑ったか。
二段モーション問題からの復活劇。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2017/09/04 17:00
プロ7年目、菊池雄星の巨大な潜在能力がついに大きく花開こうとしている。フォーム問題もいい形で決着してほしいものだ。
プロに入って数年は、肩を水平にして投げていた。
菊池の理念は一貫している。
投げる方の肩を下げるべきという投球フォーム理論は、対戦した投手を見ていても、感じるという。
「ある投手と対戦したときに、横から見ていて、高校の時の彼とは違うなと思いました。その選手の一番の持ち味は、右肩を下げてパワーをためて投げていくところでした。だから155kmとか、それくらいの球を投げられていたと思うんです。今は水平に出て行っています。実は僕も高校時代は左肩を下げていて、プロに入って数年は水平で投げていました。理由はケガして怖くなったことと、コントロールを気にしたからです。ただ肩は下げないとパワーは生まれないと思うんです」
試合の前日、菊池のブルペン投球はひどい状態だった。
とはいえ反則と言われたからには、身体の力を貯める動きを修正する必要がある。
シーズンが終盤に差し掛かっているこの時期に、彼自身の理論を実現する新しいフォームを作り直すには時間が足りなかった。土肥コーチによれば、8月31日の試合の前日、菊池のブルペン投球はひどいものだったという。
「ボールがよく抜けていましたね。前までと違っていました。本人はタイミングが合わないと言っていました。試合でクイックにするというのも選択肢ですけど、いったんは身体を大きく使わないとうまくいかないと思います。試合が始まってからどう調整していくかですね」
絶望的な状況で本番を迎えた。
初球のストレートを投げ込むと、楽天の1番・オコエ瑠偉にバックスクリーン横に放り込まれた。ただこれについては、菊池のボールに本来のパワーはなかったとはいえ、打ったオコエをほめるべき場面だろう。「菊池さんのストレートに合わせて打ちにいかないことには、打てなかったとしても、得るものがない」と割り切ったオコエの勝利だったのだ。
菊池がこれまでとの違いを見せたのはそこからだ。