野球善哉BACK NUMBER
菊池雄星は何を信じ、何を疑ったか。
二段モーション問題からの復活劇。
posted2017/09/04 17:00
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Kyodo News
今にも小雨がちらついてきそうな空模様の中、菊池雄星は頭の上に乗せていたサングラスをかけた。
報道陣が増え、これから数時間後に立つマウンドへの不安を周囲に悟られたくなかったのかもしれない。
「1番いい時の力が100としたら今年はもう(100の力で投げるのは)無理かもしれません」
一通りのウオーミングアップを終えた菊池は苦しい胸の内をそう吐露して、ロッカールームへと消えていった。
8月31日、二段モーションによる反則投球が宣告されてから3試合目の登板となったこの日。エースは確かに傷ついていた。
5月からフォームを確かに変えていたが……。
菊池の投球フォームに初めてケチがついたのは、5月12日のオリックス戦のこと。真鍋審判員に「(反則投球)ギリギリだぞ」と言われたのが始まりだった。
5月からフォームを少し変えていたため、全く身に覚えがないというわけではなかったが、ひとりの審判から警告を受けただけで、それから3カ月の間、本人、球団には何の音沙汰もなかった。
それが8月になると雲行きが怪しくなる。同月10日の登板後に球団に注意が入ると、同17日の楽天戦で初めて反則が宣告されたのである。
「なんで今頃」という言葉ばかりが報道されたが、菊池、そして彼を見守る土肥義弘ピッチングコーチ、球団が一貫して審判団に求めたのは、菊池の投球フォームのどの部分がどう反則であるかの説明だった。
しかし、審判団は「応えられない」と煙に巻くだけだった。
ようやく反則の中身が明らかになったのは、8月24日のソフトバンク戦。菊池が初球を投じると反則投球を宣告。試合後に取材に応じた当該審判団のひとりが「菊池投手のフォームはビデオでも確認している。開幕の頃とは明らかに違う。段がついている。これはダメだと思って取りました」と報道陣に説明したのだった。