ニッポン野球音頭BACK NUMBER
ベイスターズ捕手陣の父親的存在。
光山英和コーチの求心力、関西弁。
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2017/08/14 11:30
得点が入れば筒香らとともに喜びをともにする。光山コーチ(中央)の果たす役割は、地味ながらとても大きい。
「昨日までがとか、明日がどうとか、違うねん!」
1勝1敗で迎えたCSファーストステージ第3戦の直前、光山が全員の前で話す場面がある。輪の中心に歩み出ると、こう言った。
「みんな、ここまでほんとに、気の狂うような頑張りでここまでこれた。でも、今日負けたら最後という試合の中で、みんなが何ができるのか。昨日までがどうやったとか、明日がどうとか、違うねん。今日の試合、この日の試合のために今年1年あったと思ってみんな戦ってくれ。わかった? OK? おし行こう!」
途中の「違うねん」で心が鷲づかみにされた感覚がする。こういう時にぽろっと混ぜ込まれた関西弁は、ずるいぐらいに沁みる。ラストはたたみかけるようにトーンを上げる。画面越しにでも、選手たちの士気がいっきに高まるのが見て取れる。これも指導者の大事な技術、あるいは資質であろう。
高城と嶺井にとって、大きくて欠かせない存在に。
以前、高城がこんな話をしてくれた。「光山さんはどんな存在か」という質問に対する答えだ。
「むちゃくちゃでかいです……むちゃくちゃでかいですね」
2度繰り返してから、こう続けた。
「試合中、パッとベンチを見てミツさんと目が合って。うなずいたりとか、止めろよっていうジェスチャーとか、そういうのをしてもらうだけで安心しますね。もう何か、いないと、ちょっと……」
嶺井にも同じ質問をぶつけた。昨シーズンは一度も先発マスクをかぶれず、今年、再び頭角を現してきた嶺井の答えはこうだ。
「新しい野球観を教えていただいてます。ちょうど自分も変わらなくちゃいけないと思っている時期に光山さんが来て、すんなり取り入れられる部分があった。ほんとに、いい指導者に巡り会えたなって思いますね」
心に響いた言葉はどんなものかと尋ねると、嶺井はあるエピソードを明かしてくれた。
「ずっと野球人生の中で、配球が悪い、悪いと言われてて、悩んでた部分も大きかったんです。そういう時に、光山さんが『俺も配球が悪かった。30過ぎるまでずっと悪かった。でも、いつか来るきっかけがあって、その歯車が合えばパズルみたいにどんどんつながっていくから。だから、あきらめずにやれ』と、そんな話をしてくれました。自分の形ができたのは30過ぎてからっていう話を聞いて、気が楽になりました」