ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
新日の「8.8横浜文体」が特別な理由。
29年前の藤波と猪木、そして鈴木実。
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byAFLO
posted2017/08/07 11:00
藤波にコブラツイストを仕掛ける猪木。この一戦から「8.8横浜文体」が新日本プロレスにはなくてはならない舞台となった。
古舘伊知郎が実況に復活した師弟対決は激闘の末……。
そんな中、藤波は新日本の内部改革のために飛龍革命をスタートさせ、5.8有明でビッグバン・ベイダーを破り、初めてIWGP王座を獲得。一方、猪木は自身がケガで返上したベルトの奪回に動き出し、挑戦者決定リーグ戦に優勝して挑戦権を得たものの同リーグ戦で長州力に初のフォール負けを喫しており、限界説が囁かれた。
そして迎えた8.8横浜文体では、『ワールドプロレスリング』から勇退していた古舘伊知郎アナも「引退試合は必ず実況する」という猪木との約束を守るべく、一夜限りの復活。初めて猪木が挑戦者となった“最後の師弟対決”は、「猪木引退」という意味合いも含みながら行われたのだ。
ここで猪木と藤波は新日ストロングスタイルの真髄とも言える試合を展開する。稀代の天才レスラー2人が持てる技術と気力を全て出し尽くすと、時間はあっという間に過ぎていき、結果は60分時間切れ引き分けとなった。
決着はつかず、猪木が引退することもなかったが、旗揚げ以来共に新日本を支えてきた師弟が繰り広げた名勝負はファンの感動を呼び、どん底だった新日本に光を与えた。そして、この昭和・新日本プロレスの“最終回”のような闘いを経て、'90年代のドームプロレス黄金時代へと向かっていくこととなる。
こうして「8.8横浜文体」は、特別な意味を持つようになったのだ。
今年のメインイベンター、鈴木みのるは29年前を知る男。
ここ数年、「8.8横浜」のG1公式戦で、棚橋弘至vs.鈴木みのる、オカダ・カズチカvs.鈴木みのる、棚橋弘至vs.柴田勝頼など、“ストロングスタイル”を感じさせるカードが組まれているのは、偶然ではないだろう。
そして今年の8.8横浜文体。メインイベントで組まれたのは、オカダ・カズチカvs.鈴木みのる。
横浜出身の鈴木にとって、文体は特別な意味のある場所だ。ファン時代に初めてプロレス観戦した会場であり、プロレスラーとしてデビュー戦を行った思い出の地でもある。そして何より、あの藤波vs.猪木が行われた伝説の'88年の8.8横浜文体で、第1試合を務めたのが、まだデビュー2カ月足らずの新人「鈴木実」だったのだ。