沸騰! 日本サラブ列島BACK NUMBER
直線の明暗を分けた隙間のない壁。
安田記念制したサトノアラジンの幸運。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byYuji Takahashi
posted2017/06/05 11:30
3連敗はしていたものの、サトノアラジンの評価は高いままだった。マイルという舞台を見つけた大器は、ここから大きく羽ばたくか。
乾いた良馬場で、外に持ち出せれば本当に強い。
これだけ長い時間馬群の壁が保持されたのは、強くて簡単にはバテない馬が多かったことに加え、直線は内も外も芝の状態が非常によく、負荷の少ない馬場状態だったことも作用したと思われる。そんなパンパンの良馬場をほかのどの馬より生かしたのが、勝ったサトノアラジンだった。
9着に大敗した京王杯スプリングカップからの参戦だったのだが、池江調教師は「京王杯は、道悪、スローペース、内枠の三重苦で力を出せなかっただけで、能力が落ちていたわけではない。きょうは、馬場がよくて外枠が当たった。そうなると確実に鋭い末脚を使ってくれるので、運が向いたな、と思っていました」と振り返った。
直線に向くと、すぐさま大外に持ち出した川田も、好条件に味方されたことを感じていた。「飛びが綺麗なので、乾いた良馬場で、直線でしっかりと外に出し切らないといけないんです。きょうは、いろいろな条件がかみ合ってくれました」
もう1頭、この馬場を生かしたのが「自分の競馬ができました」と田辺裕信が振り返ったロゴタイプだ。逃げて、先に抜け出したので、自分の後ろで強固な馬群の壁が形成されても、それとは無関係に走ることができた。前半800m通過が昨年より1秒5も速いペースのなか2着に残ったのだから、けっして恵まれたわけではない。7歳という馬齢を感じさせない強さを発揮した。
適正距離を模索し、マイルに辿りついた。
さて、話は勝ち馬に戻るが、サトノアラジンは、池江調教師が「この素晴らしい馬でGIを勝てなかったら調教師失格だと思っていたので、嬉しいです」と言うほど、早い時期から素質を高く評価されていた。
2歳のころから重賞で好走していたが勝ち切れず、春のクラシックには不出走。菊花賞では6着だった。その後、1400mから2000mまでさまざまな距離のレースを使いながら、どのあたりがベストなのかを、騎手、厩舎スタッフと話し合いながら模索してきたという。
「4歳の春か夏ぐらいに、中距離では持ち味が生きないな、と。ワンターンの1800mがいいかと思ったのですが、1800mだとテンが遅くなり、瞬発力が生きなくなる。ならば、勝つと種牡馬としての価値も高くなるので、マイルを使うようになりました」
他厩舎だが、全姉のラキシスが2200mのエリザベス女王杯を制し、2000mの大阪杯でキズナを抑えて勝つなどしたことも、適距離の判断を難しくしたのかもしれない。