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佐藤琢磨の快挙がホンダの勇気に。
インディ500制覇、F1界からも祝福。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAFLO
posted2017/06/04 09:00
恒例のウィナーズ・ミルクを掲げる佐藤琢磨。半分ほど飲んだ後はミルクを頭からかぶって喜びを爆発させた。
2004年のF1ヨーロッパGPでも、似たようなシーンが。
同じような記憶が、F1でもあった。2004年のドイツ・ニュルブルクリンクで開催されたヨーロッパGPのことだった。レース終盤3番手を走行していた琢磨は、2番手のルーベンス・バリチェロをオーバーテイクしようとして接触。琢磨は2番手はもちろん、3番手の座も失い、最後はエンジンブローでリタイアした。3番手のままでも、ゴールすれば日本人として2人目の快挙だった。
レース後、「3番手を守ろうという気持ちはなかったのか?」と尋ねると、琢磨は次のように即答した。 「チャンスがあれば、攻める。守ろうなんて、考えなかった」
その気持ちは、2戦後のアメリカGPで実を結んだ。予選3位からスタートした琢磨だったが、ピットストップロスで一時10番手まで後退。だれもが表彰台は遠のいたとあきらめたが、琢磨だけはあきらめなかった。攻めに攻め、コース上でオーバーテイクを繰り返した。そして、つかんだ3位表彰台だった。
「No attack, No chance」という信念を貫いて。
この年、琢磨が掲げていた信念となる言葉が「No attack, No chance」(挑戦しなければ、チャンスは来ない)だ。それは無鉄砲に挑戦し続けろという意味ではない。挑戦することで初めて得られる経験があり、その経験によって人はもうひと回り成長するということを意味しているのではないか。
F1とインディでさまざまな経験を積んだ琢磨が、今年40歳で栄冠をつかんだのは偶然ではない。琢磨がトップでチェッカーフラッグを受けた後、琢磨を知る多くの海外メディアが筆者の元を訪れ、握手攻めにあった。その中の何人かは、この日の琢磨の素晴らしいファイティングスピリットを褒め称えていた。
レースはスポーツであり、人生でもある。どう戦うのか? 決めるのはマシンではなく、人間だ。