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セナのヘルメットに震えが止まらず。
偉業に並んだハミルトンの敬意。
posted2017/06/18 07:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
AFLO
「学校から帰宅したら、アイルトンのビデオテープをよく見ていたね。だからいま、ここで彼の記録に並んだことが信じられない。この気持ちは言葉になんかできないよ」
6月10日に行われたカナダGP公式予選でポールポジション(PP)を獲得したルイス・ハミルトン。2戦前のスペインGPで通算64回目のPPを獲得していたハミルトンは、このPPで伝説のドライバー、アイルトン・セナが持つF1歴代2位の65回に並んだ。
子どものころセナがヒーローだったというハミルトンにとって、歴代2位とはいえ、セナの記録に並んだことは特別な意味を持っていた。セナは予選で常に速く、PPはセナの代名詞と言われたほどだったからだ。
F1ではPPを獲得してもポイントは与えられない。それでも、セナが予選でPPを狙い続けたのは、もちろんレースに向けて絶好のポジションからスタートして有利に戦うという戦略的な意味もあったが、それ以上に純粋に最速を目指すというレーシングドライバーの本能によるところが大きかった。
セナが「孤高のチャンピオン」と称される理由。
かつて、あるレーシングドライバーに「グランプリの週末で最も緊張する時はいつか?」と尋ねたことがある。レースのスタートの瞬間かと思ったら、「予選」だと言う。その理由は「レースは周りに相手がいるので、いかに冷静に状況を判断するかが大切だが、単独で走る予選はマシンの性能をフルに引き出すために、100%集中して走ることができるから」だと説明した。
それゆえ、予選前にガレージに向かう途中でファンにサインを求められても、ほとんどのドライバーは応じない。レーシングドライバーにとって、予選はマシンと自らの限界を賭けた孤独な戦いなのである。その予選で圧倒的な速さを披露し続けたセナが「孤高のチャンピオン」と称される理由もそこにある。