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佐藤琢磨の快挙がホンダの勇気に。
インディ500制覇、F1界からも祝福。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAFLO
posted2017/06/04 09:00
恒例のウィナーズ・ミルクを掲げる佐藤琢磨。半分ほど飲んだ後はミルクを頭からかぶって喜びを爆発させた。
F1に参戦していた琢磨とチルトンの走りに注目が。
しかし、F1界にとって、今年のインディ500はそれで終わりではなかった。なぜなら、アロンソ以外にもF1の世界で戦ったことがあるドライバーが優勝争いを繰り広げていたからだ。アロンソがリタイアしたときトップ争いを繰り広げていたのは、イギリス人のマックス・チルトンと佐藤琢磨だった。
チルトンは2013年にマルシャのレギュラードライバーとしてF1にデビュー。翌年もレギュラードライバーとして戦ったが、チームの経営難により、第16戦ロシアGP限りでシートを失った。35戦を走って入賞した経験はなく、最高位は13位が2回。成績だけを見れば、ほとんど記憶に残らないドライバーだったが、インディ500では輝いていた。
各チームがオリジナルでマシンを製造しなければならないF1では、成績はマシンによって大きく左右されるが、ワンメイクのインディではF1よりもドライバーが能力を発揮できる要素が多い。昨年のインディ500勝者は、F1で1度も勝ったことがないアレキサンダー・ロッシだった。さらに今年のF1では一度もトップを走っていないアロンソも、インディ500で27周にも渡ってラップをリードした。
アロンソのリタイア後、チルトンのトップ快走に多くのイギリス人たちが手に汗を握って応援していた。そのチルトンを残り6周でオーバーテイクしたのが琢磨だった。琢磨はその後、トップに立っていたエリオ・カストロネベスとインディ500史上に残るだろうと思われる死闘を繰り広げた。
琢磨が仕掛け、クラッシュした2012年の最終ラップ。
このとき、観戦していた多くの人々の脳裏をよぎったのが、5年前のクラッシュだった。2012年のインディ500でダリオ・フランキッティと優勝争いをしていた琢磨は、ファイナルラップのターン1でフランキッティのインに飛び込むもののスピンアウト。ウォールにクラッシュしてリタイアした。
レース後、琢磨はこう語った。
「勝利だけを見てアタックした。悔いはない」