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尊敬する柳沢敦を超えた109ゴール。
興梠慎三、貪欲になりすぎない美学。
text by

杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/05/30 11:00

興梠が決めれば、赤の戦闘服に身を包んだサポーターが歓喜する。それは浦和でも、鹿島でも変わらぬ風景だ。
シュート数を比較すると、柳沢より103本も少ない。
興梠の高校時代を知る浦和のスカウトは、今とプレースタイルは違ったという。
「ポストプレーは、あまり見なかったね。周囲と連係しながら崩すタイプではなかったよ。中盤まで下がってボールを受け、ゴール前までドリブルで一気に運んでシュートを決めるシーンもよく見た。個人技が光っていた」
ときにストライカーはエゴイストであれ、という格言も耳にするが、プロフットボーラー興梠の信念は揺るがない。ゴール前でより良い状態の味方がいれば、シュートではなく、迷わずにパスを選ぶ。
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J1歴代9位で並ぶエジミウソン(元浦和ほか)とシュート数を比較すると、興梠の469本は、705本のエジミウソンより236本も少ない。通算108得点の柳沢の572本と比べても、103本も少ない。興梠のプレースタイルを推して知るべしだろう。恩師である鵬翔高の松崎博美総監督は、その成長ぶりに目を細める。
「チームプレーに徹している。これも本人の努力があったからこそ。鹿島のスタイルにも、浦和にも適応している」
チームの勝利こそ、すべて。その姿勢は見る者にも伝わる。
響き渡る「浦和のエース、行こうぜ慎三」の歌声。
宿敵の鹿島から移籍してきたが、今では「浦和の男」として愛される存在になった。真っ赤に染まる埼玉スタジアムでは「浦和のエース、行こうぜ慎三」という歌が響きわたり、背番号30のユニフォームを着たファン・サポーターを目にしない日はない。
興梠は野太い歌声に心地良さとありがたみを感じながらも、「自分のことをエースとは思わない」と言い切る。そう呼ばれるには、勝負どころでゴールを決めて勝利に導き、シーズンに20ゴール以上は取る選手でなければならない、という持論がある。自身のキャリアハイは昨季の14ゴール。
今季はすでに12節時点で11ゴールをマークしており、大台も遠くはない。「俺の場合、2ケタに乗ってからペースが遅くなるから」と、どこまでも謙虚に笑う。そして、これからもスタイルは変えない。
「ゴールに貪欲になりすぎないこと」
無欲なストライカーは、いま得点ランクのトップに立っている。
