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尊敬する柳沢敦を超えた109ゴール。
興梠慎三、貪欲になりすぎない美学。
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/05/30 11:00
興梠が決めれば、赤の戦闘服に身を包んだサポーターが歓喜する。それは浦和でも、鹿島でも変わらぬ風景だ。
「僕は周囲に生かしてもらうタイプ。浦和のおかげ」
5月20日、12節の清水エスパルス戦。言葉どおりだった。24分、ゴール前で浮いたルーズボールに素早く反応し、左足のオーバーヘッドキックで鮮やかにネットを揺らした。この試合では今季2度目となるハットトリックまで達成。それでも、2点リードしながら3-3のドローで終えると、肩を落とした。
試合翌日も、表情はさえないまま。炎天下の中での回復トレーニングを終え、ゆったりとした足取りでクラブハウスに引き上げてくると、「勝たないと意味がないから」とそっけない。通算111ゴールは、歴代9位タイの記録。'13年に浦和に加入してから、すでに62ゴールをマーク(5月25日時点)。目標だった得点数を超えたことに思いはあるはず。
「このチーム(浦和)のおかげだよ」
短い言葉にも、実感がこもる。浦和では多くのゴールチャンスに恵まれているという興梠は、自身のプレースタイルをよく理解している。
「僕は周囲に生かしてもらうタイプ。ひとりでゴールを奪えるフォワードではないから」
パスを受ける前に体を当てるポストプレーは芸術の域。
だからこそ、いつも感謝の気持ちを忘れずにピッチに立つ。味方のパスミスで、自分の動きが徒労に終わっても手を高く挙げ、「俺の動きを見てくれて、ありがとうという気持ちを伝えている」。鹿島時代にピッチ内外でチームメートから慕われ、ゴールをこつこつと積み重ねてきた先輩の背中を見てきたからだ。
「(鵬翔)高校時代は俺にパスを出せよ、というタイプだったけど、ヤナさんの姿を見て変わった」
代名詞ともいえるポストプレーも、柳沢から影響を受けたもの。パスをもらう前にマーカーに体を当て、一瞬フリーになる細かい技術は間近で見て盗んだ。興梠が完全にマスターした芸当の妙には、浦和で2シャドーを組む武藤も舌を巻く。
「慎三さんは相手に体を当てるタイミングがいいんですよ。あんなにボールが収まる人はいない」