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ジョコビッチの深刻な不調はなぜか。
尋常でない男の、ありきたりな理由。 

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秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

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posted2017/05/23 07:00

ジョコビッチの深刻な不調はなぜか。尋常でない男の、ありきたりな理由。<Number Web> photograph by AFLO

フェデラー、ナダルのグランドスラム優勝回数を簡単に抜いていくかと思われたジョコビッチがまさかの失速。さて、復活は?

あのジョコビッチが、そんなありきたりな理由で?

 ジョコビッチは「1人でやっていく。向こう3週間、長くても4週間くらいはね」と話しており、少なくとも全仏オープンはコーチをつけずに臨むことになりそうだ。

 不協和音は昨シーズン終盤から聞こえてきていた。

 11月のパリ室内の期間中、英国紙『タイムズ』がジョコビッチにグル(導師)、つまり精神世界に導く指導者が帯同していると報じた。ジョコビッチは「彼はずっとテニス界で過ごしてきた人物。メディアはグルと呼んで物語を作ろうとしている」と報道内容を打ち消したが、彼の迷走はこれで強く印象づけられた。

 それからあまり時間を置かずに、ベッカーが「成績急降下の原因は練習不足」と断じ、チームを去っていった。

 そのパリ室内でジョコビッチは、グランドスラム達成でモチベーションが落ちたことを明かした。

「やはりそうだったのか」と腑に落ちたが、一方で、ジョコビッチがそんなありきたりな理由で不振に陥ることが、うまく理解できなかった。神がかりのようなパフォーマンスを見せ、常勝を誇ったジョコビッチが、あのモチベーションのかたまりのような選手が、目標達成と引き替えに意欲を失い、失速するというのが不思議でならなかった。

ジョコビッチのプレーはいつも驚きに溢れていた。

 思えば、ジョコビッチの周囲では去年から“まさか”の事態が続けて起きていることになる。

 われわれは、尋常でないものを目撃したいという期待感とともにスポーツを見る。ジョコビッチのプレーはそういう驚きに溢れていた。疲れを知らぬ体力で縦横にコートを駆け、ショットは機械並みの正確さでコート深くに突き刺さった。

 ハートも強靱だった。2011年のロジャー・フェデラーとの全米オープン準決勝は、相手のマッチポイントを2本しのいでの逆転勝ちだった。信じられないことに、ジョコビッチはその1年前の全米でも、相手のマッチポイントを挽回してフェデラーに勝っていた。

 われわれ日本人は錦織圭のターゲットとしてジョコビッチを見ることが多かった。'14年全米では、錦織が本来の攻撃的なスタイルで絶対王者を破ったことで、日本中を興奮が駆け抜けた。しかし、その後は錦織の10連敗。昨年のローマ準決勝では最終セット・タイブレークまで追い込みながら、振り切られた。一時は近づいたとも思われたが、その背中はまだ遠い。

【次ページ】 全部のピースが揃わなければ、BIG4といえど。

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