バレーボールPRESSBACK NUMBER
成徳仕込みの体幹と即興の修正力。
黒後愛は木村沙織と違う道を行く。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byKiyoshi Sakamoto
posted2017/05/17 11:30
5月2日に行われた黒鷲旗の上尾戦で公式戦デビューした黒後愛。同大会では18歳らしからぬ存在感を見せた。
オーバーハンドでのレセプションは難しいが……。
第2セット、東レの越谷章コーチは黒後に指示をした。
「レセプション、ちょっと上げようか」
エンドラインに近い後方で守っていた黒後の守備位置を、アタックラインに近い前方に上げる。相手のサーブが変化をする前に、オーバーハンドでレセプションをして、返球率を上げることが狙いだった。
とはいえ、手が小さく、手首の力も弱い女子選手は「オーバーでのレセプションはやったことがない」という選手が大半で、「やってみろ」と言われても、すぐにできるほど簡単なものではない。
だが、黒後はその予想をあっさりと覆した。
第1セットにはポイントを取られたサーブをオーバーハンドで処理し、しかもただボールを上げるだけでなく、セッターがつなぎやすい位置にボールの変化を殺して上げる。何気ないプレーではあるが、それは現役時代にレセプションの名手として日本代表に選出されたことがある越谷コーチをも驚かせるものだった。
「体の使い方がやわらかくて、上半身の筋力、体幹がしっかりしているからブレない。ボールをコントロールする能力は他の選手と比べても抜群。オーバーハンドのレセプションも高校でやっていたとはいえ、試合の途中で守備位置を変えて対応できる。すごいな、と思いましたね」
試合中にトスの位置を変更することにも対応。
周囲を驚かせたのは守備だけではなく、攻撃面も同様だ。高校時代は自身より高いブロックと対面することはほとんどなかったため、たいていの場合、好きなコースに打てば決まった。だが相手がVリーグの選手となれば状況は異なり、相手のブロックやレシーブに対して、こっちのコースは打てない、という状況も出てくる。
加えて、高校まではセッター対角のオポジットに入ることが多かったのだが、東レではレフト。不慣れなポジションも相まって、序盤はスパイクもストレートにしか打てずにいた。しかしコースの幅を出すために、あえてアンテナの外まで伸ばすような軌道ではなく、頂点がやや手前に来る短めのトスを上げ、助走から突っ込んで入るイメージで打たせると、あっさりとクロスの奥、コートの最も深い場所へとスパイクを叩き込んだ。