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10年前の恩義を福良監督に返す時。
小谷野栄一が乗り越えた引退危機。 

text by

米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

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photograph byKyodo News

posted2017/05/02 08:00

10年前の恩義を福良監督に返す時。小谷野栄一が乗り越えた引退危機。<Number Web> photograph by Kyodo News

4月27日の試合ではチームをサヨナラ勝ちに導く内野安打を放った小谷野。勝利のために見せるしぶとい打撃には味がある。

今はグラウンドに立てるだけで嬉しい。

 病気をきっかけに考え方が変わり、さまざまなことが好転したと小谷野は言う。

「病気になったおかげで、グラウンドに立てるだけで嬉しいと思えるようになったんです」

 自分が一番になりたいという執着が消え、どうすればチームに貢献できるかを考えるようになった。

「僕は、最低限を計算できる選手になら、なれると思った。例えばランナーが三塁にいる時に、この選手ならアウトになったとしても最低限ゴロを打ってくれるから1点は入るな、とか、自己犠牲ができるとか」

 そうして自分の居場所を見つけレギュラーに定着し、2010年には打点王に輝いた。

「不得意なところがあったほうが人間味があっていい」

 また、人との関係性も変わったと言う。

「昔の僕は完璧主義で、人には強い部分しか見せたくなかった。でも、弱い部分も自分の個性だし、不得意なところがあったほうが人間味があっていいじゃん、って思えるようになった。弱いところも見せるようになってから、人付き合いがすごくしやすくなったし、僕に対する周りの見方も変わってくれたと思う。病気になってよかったなと思うのはそういうところですね。今でも試合前に発作が出ることがあるけど、みんな受け入れてくれているからすごくありがたい。こっちに来てからは、結構、若い子にいじられるんですよ。でも、『あ、そういうのもありだな、心地いいじゃん』って思えるんです」

 昔は「人を寄せ付けないタイプだった」という小谷野の周りに、今では自然と人が集まる。今年1月の自主トレではオリックスから5人が弟子入り。それ以降も後輩たちがこぞってアドバイスを求めにくる。

【次ページ】 打撃好調の駿太も、小谷野に助言を求める1人。

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