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男子100mをめぐる9秒台狂想曲。
本気の桐生、のんびりケンブリッジ。
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAFLO
posted2017/04/28 17:00
9秒台への熱狂は、桐生祥秀から始まった。日本初の9秒台、として歴史に名前を残す事ができるか。
実は1人目の9秒台にこだわっていないケンブリッジ。
米国でシーズンインをしたケンブリッジは、4月15日フロリダでの初戦で5.1mの追い風参考ながら9秒98と電動計時では日本人2人目となる9秒台を記録している。
同レースではケンブリッジの前に走った選手たちが強風の下で9秒台を連発。その波に乗ってケンブリッジもしっかり9秒台を叩き出した。
ケンブリッジは「追い風でも9秒台は喜んでいいのかなと思います」と少し苦笑いも見せ、「追い風は体が煽られるので、個人的にはあまり好きじゃないですね。追い風でのメリットはそこまで感じませんでした」と分析した。4月22日のテキサスでの試合では、移動や環境の変化にもうまく適応し、追い風参考ながら10秒12とまずまずの記録を出している。
ケンブリッジは米国の28日(日本時間の29日)に、フロリダ大学の記録会に出場予定。9秒台を期待されていることは実感しているが、「(9秒台を)最初に出したいですか、とよく質問されますが、絶対に自分が最初に、とは思っていません」とのんびりした口調で話す。
もちろん9秒台は目標ではあるが、「まずはロンドン世界陸上の参加標準記録10秒12を公認の条件下で出さないと」と足元を見つめる。
9秒台が見たいと逸る気持ちはわかるけれど。
日本人選手が9秒台を出す歴史的な瞬間に立ち会いたい、と思って競技場に足を運ぶ人も多いだろう。しかし屋外で行われる陸上は、風や気温の変化などのコンディションに左右されやすい競技でもある。選手自身が9秒台への準備ができていても、環境が整わなければトップ選手でも9秒台を出すのは難しい。
彼らのレースひとつひとつが今夏のロンドン世界陸上、そして3年後の東京五輪につながっていることも理解してほしい。9秒台を出すことで自信が深まることもあるだろうし、自身の課題を修正することを重要視している選手もいる。上記の3選手だけではなく、皆がそれぞれのペースで世界に向かっている。
9秒台が見たいという逸る気持ちを抑えて、彼らの軌跡を温かく見守ってほしい。