オリンピックPRESSBACK NUMBER
殺到するファン、国民の極端な期待……。
それでも桐生祥秀が一番9秒台に近い。
posted2017/05/08 08:00
text by
別府響(Number編集部)Hibiki Beppu
photograph by
Yusuke Nakanishi/AFLO SPORT
貫禄が出てきた。
4月29日に広島で行われた織田記念陸上。
GP種目の男子100m決勝に登場した桐生祥秀(東洋大)は、向かい風0.3mの条件の中で10秒04を記録。圧勝して見せた。
向かい風の条件下では日本史上最速タイムではあるが、一方で集まった1万1000人の観客が期待する「9秒台」には、届かなかった。
これで早くも今季3度目の10秒0台。だが、なかなか歴史的瞬間は訪れない。ファンからは「なんだ、また“10秒の壁”は破れなかったのか――」という嘆きが聞こえてきそうだ。
だが、ちょっと待ってほしい。
今季の桐生はこれまでと明らかに、違う。
本人が「10秒0台で走った翌日でも、昨季と比べてダメージが少ない。明日また100m走ろうと思えば走れる」と語るように、冬季に取り入れたウエイトトレーニングやフォーム改善の影響か、明らかに身体の強さに磨きがかかっているのである。
技術的成長だけでなく、精神的にも一気に成長した。
また、課題だったという80m以降の後半にスピードが落ちなくなり、0台の記録が続くことが示すように、走りのアベレージは明らかに上がっている。
何より目を引くのが精神面の変化だ。
一言で言えば「落ち着いて」いるのである。
織田記念には、日本人初の9秒台という歴史的瞬間を一目見ようと、ファンたちがこれでもかと押し寄せた。本来ならば、桐生同様に期待を集めたはずの山縣亮太(セイコー)は、足首の故障のため、今大会は直前で欠場。桐生はたった1人で、日本中の期待を背負う格好になってしまっていた。