マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
打者や投手より目立たないけれど。
春の甲子園に現れた3人の守備名人。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2017/03/19 09:00
2年前の夏の甲子園決勝、1年生ながらヒットを放った仙台育英の西巻賢二。さすがにまだあどけない表情をしている。
平沢大河のDNAを引き継ぐ、打球処理のタイミング。
きちんと捕って、きちんと投げて、間違いなく刺せる。カーン! と打球音がした瞬間、すでに1歩スタートがきれている反応のすばらしさ。打球を処理する一連の動きのタイミングの良さは、数カ月間でもその背中を見て学んだ平沢大河(現・千葉ロッテ)のDNAなのかもしれない。
野球技術の基本がしっかり備わっていて、それをそのまま体現できる高度な身体能力と柔軟性。昨秋の明治神宮大会ではマウンドにも上がって130キロ後半だったが、ひと冬越した今ごろは、余裕で140キロ前半ぐらいコンスタントに投げているはずの瞬発力。
私は、秘かに捕手でどうなのか……とそんな妄想も抱いている。今の野球界の「好捕手枯渇現象」がいくらか緩和されるはずだ。
健大高崎の監督が1年生の時に呆れた守備上手。
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健大高崎・湯浅大(3年・170cm67kg・右投右打)に驚いたのは、1年春の練習試合だ。
試合途中から守備に入り、イニング間の練習で一塁手が転がした最初のゴロをさばいた動きの速かったこと。サァーッと来て、サァーッと捕って、ピュンと投げたそのボールが構えた一塁手のミットのそこにきまった。
コイツだな……。
「今度入ってくるショート、こいつは上手いです。ほんとに上手い」
なかばあきれるような口ぶりで、以前、青柳博文監督が教えてくれたそのショート。すぐにわかった。
ポーンとスタートをきって、それでも捕球点で打球と“衝突”しない動きの強弱のコントロール。前の緩いゴロに突っ込んでも、勢い余って強く投げることもない。二塁ベースの真後ろからけん制に入って刺せるトリッキーな動き。痛烈なゴロをスッと吸収するように捕球して、一塁送球も決して高く抜けない。盗塁阻止の二塁送球が高く抜けても、ジャンプ捕球→着地と同時のタッチプレーで刺す“とっさ”の反応。
プレーのメリハリは、そのまま自信の証明。ほめる材料を挙げればキリがない。
最近の選手には珍しく、腹から声の出る“爆声”で四方に指示を与え、士気を鼓舞する人間的パワーもものすごい魅力になっている。