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ラトバラとマキネン
「勝利をもたらした化学反応」 

text by

古賀敬介

古賀敬介Keisuke Koga

PROFILE

photograph byTOYOTA

posted2017/03/29 11:00

ラトバラとマキネン「勝利をもたらした化学反応」<Number Web> photograph by TOYOTA

復帰1戦目となるモンテカルロでは、舗装路に雪が混じる難しい路面路面状況の中、2位でゴールしたラトバラ。

レーシングカーとラリーカーは全く異なる。

 自身もエンジニアである、トヨタの嵯峨宏英チーム副代表は「過去のトヨタにはなかった競技車の作り方です。エンジニアが性能の高いクルマを作ったら、多少は乗り辛かったとしても、後はドライバーが努力して性能を引き出すべきという考えが、以前の我々にはありました。しかし、マキネンは何よりも乗りやすさを重視した。彼の要望に従い、何度かエンジンを設計し直しましたが、それは正解だったと思います」と述べる。

 サーキットを走るレーシングカーとラリーカーでは、求められる特性が異なる。サーキットはコースのまわりにランオフエリアが設けられているため、少しぐらいコースを外れてもクルマとドライバーが大きなダメージを負うようなことはない。しかし、一般道や山岳路が舞台となるラリーのコースに、ランオフエリアは存在しない。ほんの数センチのラインの乱れが、大きなクラッシュに繋がる。だからラリーカーは、レーシングカー以上にドライバーの意のままに動くことが求められる。そしてマキネンは、それを誰よりも良く理解しているからこそ、乗りやすさの追求を徹底したのだ。

驚くべき短時間でマシンを仕上げたラトバラ。

 マキネンは、ベテランドライバーのユホ・ハンニネンに基礎開発を委ねたが、自らも頻繁にテストカーのステアリングを握り、開発の方向性を確かめた。そして良い下地ができた段階で、現代のWRCを代表するトップドライバーであるラトバラをチームに招聘。ヤリスWRCの開発は、昨年末からさらに加速した。ラトバラは、トヨタ加入後すぐにテストに赴き、休むことなくステアリングを握り続けた。

「最初から良いフィーリングを得られた」と、ラトバラは好意的だったが、それでも初期の段階では、彼のドライビングにセッティングが完全には合っていなかった。しかしラトバラは、非常に短い時間でヤリスWRCの性能を高め、自分のスタイルに合わせ込んだ。

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