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ラトバラとマキネン
「勝利をもたらした化学反応」 

text by

古賀敬介

古賀敬介Keisuke Koga

PROFILE

photograph byTOYOTA

posted2017/03/29 11:00

ラトバラとマキネン「勝利をもたらした化学反応」<Number Web> photograph by TOYOTA

復帰1戦目となるモンテカルロでは、舗装路に雪が混じる難しい路面路面状況の中、2位でゴールしたラトバラ。

「僕の最初のラリーカーはカローラでした」

「ラトバラは開発能力に長けているし、クルマのメカニズムにも精通している。彼をチームに迎えることができて本当に良かった」と、マキネンが言えば、ラトバラは「何だかホームに戻ってきたような気がする。僕の最初のラリーカーはカローラ1600GT(AE86)で、昔からトヨタとは浅からぬ縁があった。だから、『帰って来た』ような感じがするんだ」と言う。ラトバラのクルマに対する愛情は深く、彼は古いラリーカーを自分でレストアし、WRCの合間を縫って積極的にヒストリックイベントに出場している。そして、膨大なラリーカーコレクションの中には、黎明期の活動を支えたカローラなど、多くのトヨタ製ラリーカーが含まれている。ラトバラは、生粋の「クルマ好き」なのである。

 10代でWRC初出場を果たしたラトバラは、デビュー当初から突出した速さを備えていた。'08年には22歳と313日で初優勝を飾り、WRC最年少優勝記録を更新した。天賦の才は誰もが認めるところで、'16年までにWRC16勝を記録。シリーズランキングでも2位を3回得ているが、いまだドライバーズタイトルの獲得には至っていない。速さは抜群ながら確実性にやや欠けるところがあり、何度か大きな機会を逸してきた。精神的な脆さがときに見られ、それを克服できぬままに年月を重ねてきてしまっていた。

マキネンの精神的サポートがラトバラを強くした。

 しかし、トヨタ加入後のラトバラには、去年までとは別人のような「強さ」が感じられる。

 以前なら、マシンに問題が起こったり、ドライビングミスをおかすと負のスパイラルに陥り、不要なクラッシュをしたり、スピードが落ちてしまうこともあった。しかし、今年のラトバラはひと味違う。

 開幕戦ラリー・モンテカルロでは、2日目の朝、エンジンが始動しないという問題が発生したが、ラトバラは動揺せず、完璧とはいえない状態だったヤリスWRCから最大限の力を引き出し、2位に導いた。また、第3戦ラリー・メキシコでは、エンジンの温度上昇によるパワーダウンで序盤に大きく遅れをとったが、強い気持ちを保ち続け、最終的には6位まで順位を上げ、結果、第3戦終了時点でシリーズランキング2位を確保している。

 今年のラトバラの「強さ」は、もちろんヤリスWRCの仕上がりの良さによるところが大きい。

 と同時にマキネンによる精神的なサポートも、ラトバラが好調を保っている理由のひとつだ。

 過去に4年連続世界王者となったマキネンは、超一流のアスリートでもある。何度も追い込まれた状況を経験し、難局を乗り越える中で、勝つためのメンタルマネージメントを身につけた。その経験が、ラトバラをしっかりと支えているのだ。それがもっとも明確な形で現れたのが、厳寒期の北欧が舞台となった、第2戦ラリー・スウェーデンでの優勝劇だった。

【次ページ】 ふたりが掲げるのは「ワールドタイトル獲得」。

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