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ラトバラとマキネン
「勝利をもたらした化学反応」
posted2017/03/29 11:00
text by
古賀敬介Keisuke Koga
photograph by
TOYOTA
見事期待に応えたラトバラの才能。
WRC復帰2戦目にしてトヨタ18年ぶりの優勝という快挙に結実した
「ふたりの化学反応」とは何か。
多くのワールドタイトルを獲得した後、1999年をもってWRC参戦を終了したトヨタは、今年「TOYOTA GAZOO Racing WRT」として18年ぶりの復帰を果たした。元世界王者のトミ・マキネンをチーム代表に迎え、彼の出身地であるフィンランド、日本、ドイツという3つの開発拠点の協働によりラリーカーを作り上げ、今年1月の開幕戦ラリー・モンテカルロで2台の「ヤリスWRC」をデビューさせた。
かつてのチャンピオンチームとはいえ、実質的にはゼロからの再出発のため、トヨタが上位を争うようになるまでには、しばらく時間がかかるだろうというのが一般的な見方だった。しかし、トヨタは初戦のラリー・モンテカルロでエースのヤリ-マティ・ラトバラが2位に入る快挙を達成。そして復帰2戦目となるラリー・スウェーデンでは、はやくもラトバラが優勝をトヨタにもたらした。
マキネンが重視した「ドライバーファースト」。
今シーズンの開幕前、マキネンは「今年は学びの年となる。経験を積み自分たちの力を高めていくことが目標だ。シーズンの途中ぐらいから表彰台争いに加わることができれば良いだろう」と、展望を述べていた。大風呂敷を広げず、謙虚な考えを貫くマキネンらしい所信表明だった。しかし、彼がこだわりを持って開発したヤリスWRCは、最初から上位を走る力を備えていた。
開発においてマキネンが何よりも重視したのは「ドライバーファースト」の思想である。彼が理想とするのは、ドライバーの意のままに動くクルマ。そこに一切の妥協はなかった。理想を形にするため、必要とあらば大幅な設計変更も躊躇しなかった。例えば基幹部品であるエンジン。目標のパワーが出ていたとしても、サイズや重量バランスの改善がクルマのハンドリングに少しでもプラスに働くと判断したならば、マキネンは迷うことなく設計変更を命じたという。