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新たな世界1位はどんな選手なのか。
ダスティン・ジョンソンと家族の物語。
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph bySonoko Funakoshi
posted2017/02/23 08:00
試合後のテイタムくんとのツーショットもすっかり定着した。昨年22試合に出場して3勝、予選落ち1回。この安定感は驚異だ。
今も忘れられない、復帰後初勝利の記者会見。
テイタムが生まれて間もなく、ジョンソンはツアーに復帰した。そして早々に3月のキャデラック選手権を制したが、あのときの優勝会見は米メディアの姿がまばらだった。
長期欠場の理由が明かされず、グレーなままのジョンソンに周囲は冷たかった。出席したわずかな米メディアたちがジョンソンを見つめる視線も、投げかけた言葉も冷ややかで、異様な空気に包まれた優勝会見。その中でジョンソンは寡黙にじっと耐えていた。
翌月。マスターズで6位に食い込んだジョンソンは、イメージはグレーなままでも、ゴルフの調子はぐんぐん上がっていることを印象付けた。
そして6月の全米オープンでは72ホール目に「イーグルで優勝」、「バーディーでプレーオフ」という状況を迎え、誰もがジョンソンのメジャー初優勝を確信した。だが、見事に2オンしながら3パットして「パーで敗北」。先にホールアウトしていたジョーダン・スピースに勝利を捧げる格好になった。
傷心のジョンソンが、黙ったまま生後5カ月のテイタムを抱いた姿が脳裏に焼き付いた。「抱くはずだった優勝トロフィーの代わりに息子を抱いた」
後に、ジョンソンがSNSで発したそんなつぶやきも頭から離れなくなった。
気がつけば、周囲はみなジョンソンの味方に。
一体どれだけメジャー大会で惜敗を繰り返してきたことか。そんなジョンソンが、またしてもメジャー優勝に迫りながら危機に瀕したのが、ルールの裁定と処置を巡る珍事が起こった昨年の全米オープンだった。
最終日の5番グリーンでボールが「動いた」のか、「動かした」のか。USGA(全米ゴルフ協会)は「ホールアウト後に1打罰を科すかもしれない」と優勝争い真っ只中のジョンソンに告げた。
ジョンソンは声を荒げることも、怒りをあらわにすることもなく、ただ黙々とプレーを続けた。そして2位に4打差でホールアウトし、毅然とした笑顔をたたえながらテイタムくんを抱き上げたその姿は「オレの勝利は揺るがない」と叫んでいるかのようだった。
優勝会見は満席だった。
「今日という日の終わりに1打罰は何の意味もなさなくなった」
最終ラウンドの終盤をプレーしていたころから、ローリー・マキロイをはじめとする選手仲間たちが次々にSNS上でジョンソン擁護の意見を発信。そうした他選手たちの声も含めて、会見は世界のメディアの大半がジョンソンの健闘を讃え、そしてUSGAの対応を批判する方向になっていた。
気が付けば、周囲はみなジョンソンの味方。そこには、大勢の人々からの「もうキミは十分に苦しんだ」、「十分に耐え、頑張った」というメッセージが漂っていた。