ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
獲得賞金ゼロの元天才ゴルフ少年も。
QTという過酷な生存競争に密着。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2016/12/16 11:00
QTのリーダーボードはクラブハウス内にある2台のPCで確認する。そこには来季出場権を争うゴルファーが集まる。
暗闇に包まれる中、残り1つのイスを奪い合い……。
レースはことし、最後の最後まで熾烈だった。
4人が34位タイの同スコアで並び、35位のボーダーラインの上下各2枠を争うプレーオフが、日没間際に開始された。最初のホールでボギーを叩いたひとりが脱落し、バーディを決めたひとりがまず1枠に入った。残された1つのイスを奪い合った木下稜介と遠藤彰の一騎打ちが終わったのは実に6ホール目。コースには投光器が用意され、あたりは暗闇に包まれていた。
6日間合計114ホールに及んだ争いに勝った木下でさえ、来季前半戦の出場チケットは、1試合、繰り下がってくるかどうかというところ。それでも、36番目に押しやられた遠藤とは来シーズンの“身分”が異なる。
わずか1打で来季の処遇が変わる。そのことを受け止めた遠藤は「これも運命」と凛として言った。「こういう悔しい思いをしなくちゃダメですよね。もしかしたら、これで来年頑張って、ここに帰ってこなくて済むかもしれない。(自分の)来年にとって何が良いか、なんて分からないですから」
「帰りだけ、気をつけます。車で7時間くらいかかる」
厳しい世界だが、これが大多数の選手の紛れもない現実である。
1999年に日本ゴルフツアー機構(JGTO)が発足しQT制度が始まってから、国内でツアープロになった日本人選手でQT受験の経験がないのは、アマチュアやプロ転向直後に突出した成績を残した宮里優作、石川、松山の3人だけ。宮里も海外ツアーでQT参戦の経験がある。この険しい道を懸命にかいくぐった先に、世間で認知されるプロツアーの世界がある。そして彼ら3人とて、将来この予選会を経験しないという保証はない。
遠藤はキャディバッグを自ら担ぎ、真っ暗になった駐車場に消えていった。
「これを良い方向に考えてやるしかないですね。帰りだけ、気をつけます。車で7時間くらいかかるんで……栃木、宇都宮の自宅まで。休憩しながら帰ります」
クラブハウス内のレストラン。テレビの向こうでは松山が汗をぬぐいながら優勝インタビューを受けていた。ホスト役のウッズに迎えられたとき「言葉では表せないくらい嬉しかった」という。
プロゴルファーの光と影。きょうも時を同じくして折り重なっている。
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