ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
獲得賞金ゼロの元天才ゴルフ少年も。
QTという過酷な生存競争に密着。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2016/12/16 11:00
QTのリーダーボードはクラブハウス内にある2台のPCで確認する。そこには来季出場権を争うゴルファーが集まる。
「もうゴルフをやめた方がいいかなって……」
「もうゴルフをやめた方がいいかなって……プロになってから、しょっちゅう、4年間ずっと思ってきました。小さい大会に出ても、平均アンダーパーで回れなかったり、とてもプロとは言えないレベルだった」
伊藤はこの予選会を66位で終えた。来年、レギュラーツアーへの出場機会がこの資格で巡ってくるのは難しそうだが、下部チャレンジトーナメントには参戦できる。
「少し前まではスタートラインにさえ立てなかった。(10代の頃は)あのときは“イケイケ、ドンドン”だったけれど、早い段階でゴルフの怖さを知ってしまって……。それを乗り越えられたらなと思います。上向きではあるので頑張りたい。まだまだ道のりは長いですけど」
大目標には届かなかったものの、地を這いつくばって耐え忍んできた期間が、小さくとも実を結んだ。
日本プロゴルフ選手権優勝経験がある45歳の悲哀。
伊藤のようなケースがあるとはいえ、この35位というボーダーラインを越えられなかった選手の心境には、やはり多くが悲哀を伴う。
45歳の河井博大は2011年に、国内メジャーの日本プロゴルフ選手権優勝で5年間の長期シードを獲得したが、最終年のことし賞金ランキング122位に沈み、QT参戦を余儀なくされた。望みをかけた争いは45位で終戦。
「ここ2、3年で少しずつ自分のゴルフがちょっとずつ崩れて、ことしはついにまったくダメだった。それが頭にあった。その流れで来て、いきなりQTでスコアを出すのは厳しい」と戦前からある種の覚悟はできていたという。
「年齢は感じます。『あれ? なんで体がこんな動きをするんだろう』ということが去年くらいからあった。こんなはずじゃない、という空回りがあったかもしれない。でも、いっぱい練習して、真っ暗になるまで練習して、でもまたダメ、やってもまたダメ。でもいつかまいた種はまた花が咲くと思って信じて前向きに行きたい」
ここはメジャー歴代覇者という冠も、何の意味も持たない実力の世界。ツアー優勝経験者の横尾要も、井上信も争いに敗れた。シニア入りも見えてきたベテランと言えど、一からの出直しを通告されるのである。