サムライブルーの原材料BACK NUMBER
CS決勝直前、柏木陽介に漂う殺気。
きっかけは恩師の「何やっとんや」。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2016/11/29 11:30
今の柏木陽介に、「勝負弱い」と言われた頃の面影はない。川崎を破って決勝に上がってきた鹿島を、万全の体制で迎え撃つ。
代表に入るだけで満足だった4年前。
このキリンカップから1カ月後、じっくりと話を聞く機会があった。
代表に対する執着が以前よりもずっと強くなった、と感じた。
ザックジャパンの初期、アジアカップなど継続的に招集されながら、アイスランド戦を最後に呼ばれなくなった。彼は言った。
「振り返ってみると、あのときの自分は『代表に入っただけで満足』というメンタリティーでした。いろんな意味で準備ができていなかった。向上心が薄れている時期。ザッケローニ監督に何回か代表に呼んでもらったのも、自分に対して何か感じるところがあったからだと思います。今になって後悔するのは、監督とコミュニケーションを取れていなかったこと。監督の思っていることを聞けずに、結果を出すこともできなかった」
レッズで試合に出ることで、気持ちは満たされていた。昔の自分を眺めてみると、代表に対する思いは見せかけだったのかもしれない。
「努力していないくせに、代表に入れなくて悔しがっていたんです、俺。代表の試合も見ないようになりましたから」
心の奥にある、この悔しさの意味は何なのか。柏木は己に問うた。
ハリルの部屋を訪れて直談判、なんてことも……。
そんな折、サンフレッチェ広島ユース時代の恩師である森山佳郎(現U-16日本代表監督)にこんな言葉をぶつけられた。
「お前は何やっとんや」
目が覚め、背中を押された気がした。
それからは、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が就任した日本代表の試合もチェックするようになった。自分に足りないところを伸ばそうとした。得点に絡むプレー、守備の貢献……。レッズで結果を残し「代表のピッチに立っていいプレーをする」ことを目標の1つとした。そして自己研さんに励んだ先に、昨年の代表復帰があった。
今年4月、JFAにあるハリルホジッチ監督の部屋を訪れて、面談したことがニュースになった。「初めて選手から直接電話があって、監督室に来ることになった」と指揮官がわざわざ明かしたためである。柏木にしてみれば監督に対して“アピール”したいわけじゃない。意識して体をシャープにしてきたつもりだが、12%以下の体脂肪率の基準について直接確認したいことがあったからだ。
監督とコミュニケーションを図る――。
ザッケローニ監督と意思疎通を図れなかった後悔が、直接的な行動に走らせたのかもしれない。見せかけの決意ではないことを、半端な思いではないことをあらわすエピソードでもあった。