スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
シメオネの神通力は消えたのか。
「攻めるアトレティコ」の勝算は?
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2016/11/27 07:00
アトレティコの生命線は、規律と闘争心。ダービーでロナウドに食ってかかったコケの姿勢を今再び共有すべき時だ。
昨季CL決勝で退団を示唆したシメオネは続投も……。
今季初黒星を喫した9節セビージャ戦では、ハーフライン付近のスローインからあっさりDFラインの裏を取られて決勝点を奪われた。前節レアル・ソシエダ戦では不要なファウルで2本のPKを献上。そして今回は相手の直接フリーキックに対して人壁に隙間を空けたことで先制点を招き、やはり不要なファウルで追加点となるPKをプレゼントしている。
シメオネの就任以降、アトレティコは個々がその時その時に何をすべきか明確なイメージを共有しながら、何より自分たちのサッカーをすれば勝てるという確信を持ってプレーしてきた。そんな彼らが集中力の欠如としか説明しようがない失点を何試合も重ねることなど、これまでまずなかったことだ。
選手たちのプレーに垣間見える「迷い」の原因。それが昨季のチャンピオンズリーグ決勝後の会見でシメオネが退団をほのめかし、その後実際クラブに契約解除を申し出たことと関係していると指摘する声もある。
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カミネロSDらの説得を受け続投を決めたものの、シメオネはその条件として2020年まで結んでいた契約を2年間短縮した。その先まで続ける可能性があるならば、わざわざ短縮などしない。来季いっぱいでクラブを去ると見るのが自然だろう。
今季、過去にないほどの攻撃的な形を模索している。
2011年12月の就任から、もうすぐ丸5年が経過する。スペインでは異例の長期政権である。
バルサで黄金期を築いたグアルディオラは4年で「空っぽになった」と言って退任した。5シーズン目の昨季にCL制覇をあと一歩のところで逃した際、シメオネがさらなるモチベーションを見出すのに苦労したとしても不思議ではない。
今季のシメオネが過去にないほど攻撃的なサッカーに挑戦しているのは、だからなのかもしれない。
これまでも試合展開によってアタッカーを増やすことはあったが、昨季までのアトレティコはガビ、チアゴのピボーテコンビに加えてコケ、サウールら攻守両面のハードワーカーを両サイドに配置する4-4-2、時に中盤をさらに厚くした4-1-4-1を基本布陣として戦ってきた。