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FWがバルサに移籍することの苦悩。
安住の地を捨てたアルカセルの決断。 

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工藤拓

工藤拓Taku Kudo

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posted2016/10/29 07:00

FWがバルサに移籍することの苦悩。安住の地を捨てたアルカセルの決断。<Number Web> photograph by AFLO

「出場機会が減る」という理由で、バルセロナに移籍したがるFWは実は少ない。パコ・アルカセルの決断は吉と出るか凶と出るか。

「自分も苦労した」と励ましたスアレス。

 途中出場した他の4試合も、限られた時間の中で手にしたチャンスを生かせなかった。

 6節ヒホン戦では右からのクロスをニアで合わせる得意の形も見られたが、惜しくもGKの手をかすめてクロスバーを強打。後半開始から登場した8節デポルティーボ戦ではゴール前で得た3度のチャンスボールをことごとく決め損ね、ゴールポストを蹴飛ばして怒りを露わにしていた。

 この試合後、パコはスアレスから「自分もはじめはゴールが決まらない時期があった」とアドバイスを受けたことを明かしている。確かにスアレスも当初はバルサ特有のプレースタイルへの適応に苦労し、初ゴールは出場6戦目までお預けとなった。

 しかし、当時のスアレスは毎試合先発しながら周囲との連係を高めることができた。一方でパコはトリデンテのバックアッパーとして大半の試合でベンチを温めながら、限られた出場機会の中で適応を進めていかなければならない。

 バルサのカンテラ育ちではない選手にとって、それは簡単なことではない。そしてスアレスが負傷離脱でもしない限り、今後もこの状況が変わることはまず考えられない。

バレンシア生え抜きのエースという道もあった。

 とはいえパコは、こうなることは百も承知の上でバルサ移籍を決断したはずだ。

「バルサにノーというのは難しい。これはあらゆる選手のキャリアにおいて大きな前進。自分は良い決断をしたと思っている」

 プレー機会は激減し、ゴールにも見放され、ジュレン・ロペテギ新監督が就任してからはスペイン代表にも呼ばれなくなった。それでもパコは自身の決断は正しかったと繰り返し主張しているが、現時点ではマイナス面しか見出せないのが現実だ。

 クラブの将来を担う存在と期待され、生え抜きのアイドルとして地元ファンの愛情を一身に受けてきた。しかも今季はアルバロ・ネグレドの放出によりエースストライカーとしての立場を確立するはずだった。

 そんな矢先、なぜお前はそんなところに行ってしまったのだ。

 メスタージャに響いた罵声には、そんなバレンシアニスタたちのやりきれない思いが込められていたように思える。

 まるで家出した息子に対し、父親が「二度と帰ってくるな!」と怒鳴りつけるかのように。

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