炎の一筆入魂BACK NUMBER
ジョンソンが作り、黒田で決定的に!?
広島に「流れ」をもたらした19球。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/10/25 12:10
最多勝は野村祐輔に譲ったが、シーズンの防御率2.15はダントツのチームトップ。広島のエースはジョンソンなのだ。
ジョンソンの19球が、広島に流れをもたらした。
緩いカーブに、陽岱鋼のバットは回った。大歓声が沸く中心で両手をたたき、叫ぶジョンソンの前を、軽快に走ってベンチに戻る安部の姿があった。
「1回で『終わった』と思いました」と試合後に振り返った安部だが、この危機を切り抜けたことで完全に立ち直った。シリーズ初打席では、ポストシーズン初の安打が生まれた。そしてその初安打が、シリーズの流れを大きく広島に傾かせる重盗につながった。
シリーズ初戦の先制点は、広島に大きな流れをもたらした。そのまま先手を取ったことで、2戦目に向けても大きなアドバンテージを築き上げた。
今季、広島は勝つことで成長してきた。一つひとつ勝ち星を積み重ねて「経験不足」を打ち消しながら、「勝者のメンタリティー」を植え付けてきた過程がある。物事には必ず始まりがある。
日本シリーズで広島に流れをもたらしたのは、ジョンソンが初戦の1回に投じた19球だったと言っても過言ではない。
「お前がエースだ」と「TIJ」、2つの言葉。
「お前がエースだ」――。
今季、畝龍実投手コーチがジョンソンに言い続けてきた言葉だ。
昨季まで広島投手陣を引っ張ってきた前田健太は、昨オフ、ポスティング制度を利用して米大リーグ・ドジャースへ移籍した。チームには黒田博樹という唯一無二の存在もいるが、大黒柱はジョンソン。首脳陣は大きな期待を寄せていた。
エースは、勝てばいいだけの存在ではない。チームを背負っている。
勝敗だけでなく、マウンドでの立ち居振る舞いも広島投手陣の顔となる。マウンドでみせる隙は相手だけでなく、味方にも影響する。エースは、チームの鑑でなければならない。
来日当初はストライクゾーンの違いに戸惑い、味方のミスにもいら立ちをあらわにした。高い制球力があるゆえ、球審のジャッジも厳しく感じられることもある。それは今季も変わらない。
だが、マウンドでは「TIJ」と言い聞かせる。「This Is Japan(これが日本のやり方だ)」。この言葉は、'11年から4年間広島でプレーし、40勝を挙げたブライアン・バリントンが言い始めた。その後加わったデニス・サファテ(現ソフトバンク)、キャム・ミコライオ(現楽天)らに浸透した。