セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
S・インザーギが蘇生させたラツィオ。
C・ロペス、クレスポも戦友に期待大。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2016/10/21 08:00
ラツィオのレジェンドの1人であるシモーネ・インザーギは、指導者としてもユースからラツィオ一筋だ。
就任要請を受けたシモーネは、バカンスからトンボ帰り。
「監督就任要請があり、受諾したのは、他でもないラツィオからだったからだ。ラツィオはやはり、私にとって特別なクラブだから」
昨季終了後、一旦クラブを離れたインザーギは、サレルニターナ(セリエB)監督へ就任することがほぼ本決まりになっていた。
しかし、ターレSDからの就任要請の電話があった途端、彼はバカンス先のアドリア海から首都ローマへ即座に舞い戻った。
現役時代も含めると足掛け15年以上も籍を置く水色のクラブは、インザーギにとってもはや分かち難い恋人のようなものだ。恋人が何を欲しているか、シモーネにはわかっていた。
「FWを獲ってくれ。このチームに足りないのは、クローゼの穴を埋めるボンバー(点取り屋)だ」
元ストライカー監督が最初にした仕事は、シンプルかつ的確な補強への要求だった。そして、セビージャから呼ばれたのが3シーズン前の得点王インモービレだった。
セリエA得点王の肩書を引っさげて移籍したドルトムントで、人見知りのインモービレは孤立し、移籍したスペインでも水に馴染めなかった。
自身も優れたFWではあったが、兄フィリッポのような超一流の域に達することのなかったシモーネ・インザーギは、ストライカーの挫折や苦悩を嫌というほど理解している。
思春期にあるナイーブなユース年代の子供たちを長く指導してきた経験から、言葉にも包容力がある。時折、兄より老成した顔つきを見せることがあるのはそのせいかもしれない。
人前で叱らず、個人面談で丁寧に諭す。
キャンプ期間中、インザーギは弟分のような選手たちを森林のトレイルランで走らせた。練習では自らも汗を流して、選手の輪に加わった。
大鷲のシンボルが胸元に彩られたジャージを着る青年監督は、何人かのベテラン選手から、「シモーネ」とファーストネームで呼ばれても気にしない。ミニゲームではFWたちが気分よくゴールを決めて練習を終えられるよう、「あと5分」「あと10分」と努めて陽気に時間を延長した。
プレーのミスがあっても人前で叱りつけることは決してせず、個人面談のときに丁寧に諭した。こういう指導法なら、気性の難しい若手やクセのあるベテランもプライドを尊重されたと意気に感じるものだ。指揮官への信頼が強まるのは道理だった。