スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
本命カブスと忍者バエス。
「マトリックスのよう」な新スター。
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2016/10/15 08:00
今年からレギュラーに定着したバエスは、ホームランもあれば盗塁もある万能の内野手だ。
相手の盗塁を防ぐタッチプレーが抜群に巧い。
バエスの守備は、いま挙げた要素を満たしている。とくに眼を惹くのは、タッチプレーが抜群に巧く、相手の二盗を数多く刺していることだ。
NLDS第4戦でも、彼は3回裏に素晴らしいプレーを2度も見せた。最初は、デナード・スパンのセカンドゴロを、滑りながら逆シングルで捕球し、反転して膝をついたまま、一塁に正確なワンバウンド送球を見せたシーン。このときの判定はアウトからセーフに覆されたが、打者走者のスパンが塁上でヘルメットを脱ぎ、バエスに向かって敬意を表したほどだった。
その直後、バエスは二盗を試みたスパンをタッチアウトに仕留めた。捕手デヴィッド・ロスの送球を軽くジャンプしてつかみ、まっすぐ降りたところにスパンが滑り込んできたようにさえ見えた。捕球の位置とタッチする場所とが、それほど無駄なく連動していた。スロー映像で見ると、まるで燕返しだ。眼と全身が一体化して、最短距離を動いている。アナウンサーが「Look at the tag!」と絶叫したのも無理はない。
「マトリックスのような滑り込み」と絶賛。
バエスは、走塁でも忍者のような驚異的能力を発揮する。MLB.comのビデオを検索すればすぐ見つかるが、2016年6月18日の対パイレーツ戦で見せた二盗の場面は、今季の語り草になっている。
あのときバエスは、クロールで息継ぎをするような体勢でタッチをかわした。頭から滑り込んで身体を横にまわし、左手を高く掲げてタッチをかいくぐり、右手でベースを探るようにオーバーランし、左足のつま先を塁上に残すという離れ業を演じたのだ。
タイミングは、完全にアウトだった。そもそもバエスは、投手の牽制に釣り出されて二塁へ走ったのだ。敵の遊撃手ジョーディ・マーサーが球を受けたとき、バエスはベースの70センチほど手前にいた。彼はそこからヘッドスライディングを試み、だれも真似のできない動きで塁を奪った。試合後マーサーは「マトリックスのような滑り込みだった」と述べた。味方の捕手デヴィッド・ロスは「俺がやったら、関節がばらばらになる」と笑った。
というわけで、バエスの身体能力、とくにそのボディ・コントロールは高く評価されている。「ヨガ・スロー」とか「ヨガ・タッチ」とかいった呼び名さえ、最近は聞かれるほどだった。
そんなバエスが、NLDSでは打撃面でもヒーローになった。第1戦では8回裏に決勝のソロホームランを打ち、第4戦では9回表に決勝の中前打を放ったのだ。まだ23歳と若いだけに、勢いに乗ると手のつけられない活躍を見せるかもしれない。熱狂的カブス・ファンのビル・マーレイも、リグレー・フィールドに日参することになるだろう。