書店員のスポーツ本探訪BACK NUMBER
スタン・ハンセンから愛する日本へ。
ファイトスタイルと素顔のギャップ。
text by
濱口陽輔Yosuke Hamaguchi
photograph byWataru Sato
posted2016/10/16 08:00
テンガロンハットに、テキサス・ロングホーンポーズ。ハンセンがまとう空気は、年を重ねても変わらない。
ブッチャーやジェット・シンの真似ではなく……。
彼はいかなるときもプロフェショナルだった。
来日した時にアブドーラ・ザ・ブッチャーやタイガー・ジェット・シンに驚く。いかに観客を沸かせているかを学ぶのだが、真似はしない。ハンセンはアスリート的な方向を追求しようとする。そのために心肺機能の強化を図り、自身のベースであるフットボール経験を生かした試合開始から終わるまで暴れ続けるスタイルを確立する。
“ブレーキの壊れたダンプカー”“不沈艦”とは良く彼を表現したキャッチフレーズだ。そのスタイルが、クラシカルなアメリカンスタイルだった全日本プロレスを、さらに言えば、大袈裟でなくプロレス界そのものを変えたのだ。
ファイトスタイルからは想像できない優しさのギャップ。
馬場と猪木、天龍と鶴田、三沢ら四天王と三世代と渡り合ったハンセンだけに、実に説得力がある。キャリアのピークが過ぎても自分の役割を理解し、四天王の壁となることで存在意義を見つけ出した。そして全力で叩き潰した。
'90年代全日本プロレスで時代を作った四天王プロレスを作ったのがハンセンである事は誰も否定できないのではないだろうか。
リング上では目の前の相手を全力で潰すスタイル。敬虔なクリスチャンであり、ファイトスタイルからは想像できない本当の男の優しさのギャップがとても興味深い。
エピローグでは東日本大震災で被災された方への想い、日本への想いが語られている。リング上の姿も表紙に写る穏やかな姿も、どちらもスタン・ハンセンそのものだと感じられた。