猛牛のささやきBACK NUMBER

糸井嘉男は体も目もやっぱり超人。
イチローも通った専門家に出会って。 

text by

米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

PROFILE

photograph byKiichi Matsumoto

posted2016/09/24 11:00

糸井嘉男は体も目もやっぱり超人。イチローも通った専門家に出会って。<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

大谷翔平の164kmを打ったというのは、なんとも糸井嘉男らしいエピソードだ。すでに数々ある伝説に、また新たなものが加わった。

イチローも通ったスポーツビジョントレーナー。

 昨年12月、糸井は大阪府吹田市にある「視覚情報センター」の田村知則氏のもとを訪れた。田村氏は長年オリックスをはじめ多くのプロ野球選手と関わってきたスポーツビジョントレーナーで、マーリンズのイチローもオリックス在籍時は通ったという。

 そこで田村氏に受けたアドバイスを、糸井はこう表現した。

「(1点を)グワーッと見るより、全体をボーッと見る方がいい、と言われました」

 この意味について、田村氏は次のように解説してくれた。

「必死になってボールをにらみにいくと、悪いモードになって体が動かなくなり、そして遅れる。気持ちとしてはめちゃくちゃ集中して、ボールをしっかり見ているという気になるんでしょうが、現実は遅れるんです。力むという表現に近いかもしれません。

 そうなると、時間の先を見なくなる。『今だ』と思って手が動いた時にはもう遅い。その“今”はもう“過去”だから。ボールが動いている時は“未来”を見ないと。予測するということです。でも1点に集中しすぎると、“今”ばかり見てしまうんです」

普通、言葉だけで理解するのは難しいが糸井は……。

 昨年、糸井にこの話をした時「あー、今年自分もそうしてました。一生懸命ボールを見にいってました」としきりに納得していたという。

「だから、『ボールを狭く見るんじゃなく、広げて見なきゃあかんで』と言ったら、彼はすぐにピンときたようでした。本来は、『ボーッと広く見る』など言葉で説明して理解してもらうのは難しいんです。1、2回話を聞いただけで体の中に落とし込みができるのは、よほど感度のいい選手。糸井君はもともと広く見るという感覚を持っていたから、『あ、こういうことやな』とピンときたんじゃないでしょうか。

 たぶん以前は天然でそれができていたけど、意識せずにやっていたから、知らないうちに変な道に入り込んでしまった時、戻れなくなった。でもここで話を聞いて、『あー』と気づいたんじゃないかな」

 ボールが速ければ速いほど、打者の広く見る、先を予測する力が問われる。164キロを打ち返せたのは、その“見る力”の影響もあったのではないか。

【次ページ】 「“超人”と言われますけど、確かにそうだな」

BACK 1 2 3 NEXT
#糸井嘉男
#大谷翔平
#オリックス・バファローズ

プロ野球の前後の記事

ページトップ