猛牛のささやきBACK NUMBER
糸井嘉男は体も目もやっぱり超人。
イチローも通った専門家に出会って。
posted2016/09/24 11:00
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Kiichi Matsumoto
9月13日の北海道日本ハム対オリックス戦で、日本ハムの大谷翔平が日本最速の164キロをたたき出した。
ただ、そこには「しかし」が続く。
「しかしその164キロは、オリックスの糸井嘉男に右前に打ち返され、先制の2点タイムリーとなった」と。
天井知らずの大谷のことだから、近いうちにまた記録を更新するかもしれないが、164キロが最速記録であり続ける限り、糸井のすごさも同時に語られることになる。
このエピソードは、今季の糸井の好調ぶりを物語っている。
日本ハムに入団後、投手から外野手に転向した糸井は、2009年から'14年まで6年連続で打率3割以上を残した。オリックスに移籍2年目の'14年には.331で首位打者に輝いた。
ところが昨年は一転、不振に陥った。打率は.262に下がり、7月には一時期、登録抹消になるなど怪我にも苦しんだ。
しかし今年は本来の姿を取り戻し、特に盗塁は、9月22日時点で自己最高の33個を大きく上回る53個で、盗塁王争いのトップに立っている。35歳の糸井がこのまま逃げ切れば、歴代最年長の盗塁王となる。
「盗塁王が2人いるんで、コーチに」
「盗塁王が2人いるんで、コーチに」と糸井は言う。
今季からチームに加わった西村徳文ヘッドコーチ、高橋慶彦打撃コーチに刺激を受け、盗塁への意識が変わったという。
まず塁に出なければ盗塁はできないが、打率も昨年とはうって変わって.312でリーグ3位につけており、出塁率も4割を超える。復活した打撃が、盗塁王のタイトル獲りを後押ししてきた。
「今年は活躍できるように、昨年のオフからしっかり目標もたててやってきた。それに、昨年はちょっと故障もあったけど、それをしっかり治せたから」
不本意な結果に終わった昨シーズン後、復活を期した糸井は、悩まされていた左膝の治療に全力を注ぎ、断食を決行したり、トレーニングも見直した。さらに、探求心は“目”の分野にも及んだ。