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新五輪競技、スポーツクライミング!
15mの壁を6秒で登る超人ぶりに驚く。
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph byAFLO
posted2016/09/14 07:00
壁は垂直を超えて、“こちら側”に倒れている。その姿の人間離れ度合いは、五輪競技の中でも有数だ。
壁を「作る」セッターたちの思考を追う。
「リード」は高さ12m以上の人工壁に作られた課題をどの高さまで登れたかを競い、「ボルダリング」は高さ5mほどの壁にある複数の課題を何本登ったかで争う。両種目は大会ごとに課題の内容が変わるため、選手たちはライバルとの戦いである一方、課題を作るセッター陣との腕比べという側面もある。
セッター陣は、課題を多くの選手に登られて順位をつけられない事態を避けるため、工夫を凝らした課題を準備している。選手をふるいにかけようとするあまり、岩場でのクライミングではありえない動きを求めることも多い。
そうしたなか、世界選手権の男子ボルダリングでは、ルスタン・ゲルマノフ(ロシア)という選手に注目している。彼は、選手とセッター陣の想像力のバトルを象徴するような選手なのだ。今季のW杯では年間5位と日本勢の強いライバルでもあるが、ルスタンの魅力はほかの選手と異なる登り方で課題を攻略するところにある。
トップクライマーともなると、初めて対峙する課題であっても、どういう手順で進めればその壁を攻略できるか見抜く目や発想力はだいたい同じ。それはセッター陣が想定する動きでもあるのだが、ルスタンだけは、違う手順を見つけ出して完登することも少なくない。彼の自由で奇想天外な発想力は、思わず唸ってしまう。
6年前からクライミングジムは3.8倍に急増中。
ほかには女子ボルダリングでも、個性的な登り方をする選手がいる。優勝候補のアメリカのメーガン・マスカレーナスは、一手、一手で長いレスト(休憩)を入れながら登るのが特徴だ。
リードでは最大50手ほどの手数を要するので、片腕ずつ振ったりして休ませながら登るのは普通のこと。しかし、最大で12手、平均で7手ほどのボルダリングで、これほど休憩をはさむ選手は稀有。しかも彼女は、ほかの選手が苦戦する箇所でも、いとも簡単にホールドを持って休みを入れるのだ。まだ18歳のマスカレーナスが、今後の女子ボルダリングのシーンを牽引していく存在になることは想像に難くない。ぜひ見逃さないでもらいたい。
6年前に比べて国内のクライミングジムの数は約3.8倍、フリークライミング人口は約60万人にまで増加した。岩場を登るフリークライミングから派生し、競技に特化したスポーツクライミングは過去最高の注目度を集めているものの、競技の魅力はあまり知られていないのが実情だ。
世界選手権は日本人選手の活躍も楽しみではあるが、世界の超人クライマーたちの個性あふれる登りを、競技の魅力を知るキッカケにしてもらいたい。
※IFSCのサイトで各種目の準決勝・決勝はライブ中継(無料)あり